イオン九州(福岡県/柴田祐司社長)が4月9日に発表した2022年2月期連結決算は、営業収益が4811億円(対前期138.2 %)、営業利益が56億円(同180.4 %)、当期純利益が27億円(同139.5%)と、大幅な増収増益となった。ちなみに売上高は過去最高を記録、営業利益も過去最高と同水準にある。実質的な収益性を示す売上高営業利益率は1.2%と、前期の1.0%より0.2ポイント向上した。
SM・DSが好調に推移
2020年9月に、イオン九州(総合スーパー(GMS)の「イオン」とホームセンター(HC)の「ホームワイド」の119店舗)、マックスバリュ九州(スーパーマーケット(SM)の「マックスバリュ」とティスカウントストア(DS)の「ザ・ビッグ」の180店舗)、イオンストア九州(旧ダイエー系:15店舗)の3社が経営統合して誕生した新生イオン九州。統合影響で前期業績との単純比較ができないため、本稿の前期比較では旧3社合計の数値を使用している。
まずは、売上高の概況から見ていこう。
2022年2月期の実質的な売上高は、対前期100.8%の微増となった。業態別には、SM・DS(同99.6%)とHC(同93.9%)が反動減で前期を下回った一方で、GMS(同100.6%)は前期を上回った。なお、下期売上高は同99.6%と感染再拡大の影響を受けたものの、食品などは相変わらず好調で、衣料品や住宅余暇にも改善傾向がみられる。
コロナ前と比べると、GMS(対19年度比99.2%)が振るわない一方で、SM・DS(同106.1%)・HC(同110.3%)は大きく伸長した。ここ1年の月次売上動向をみても、九州地区スーパーが前年度の水準を下回り続けているなかで、イオン九州はほとんどの月で上回っている。
売上はほぼ横ばいで推移したものの、統合効果もあって営業利益は対前期比114.0%と2ケタの伸びを示した。
経営統合に伴い、同社は機構改革を実施、県単位の事業部体制に移行した。営業・商品両本部のを通じて店舗のローコストオペレーション強化を図ると同時に、本部組織の機構整理により要員を店舗にシフトした。結果として人件費(対前期比99.6%)・販促費(同99.7%)がうちわに収まり、増益につながった。
DX・店舗改革・食品改革を推進
ここからはイオン九州の21年度の主な取り組みを見てみたい。
注目はDX(デジタル・トランスフォーメーション)だ。イオン九州は2021年度に、スマートレジの拡大、アプリのリニューアルさらには電子棚札・デジタルサイネージ導入を進め、消費者の利便性向上を促してきた。
最も注目度が高いのがスマートレジで、セルフチェックアウトシステムの「どこでもレジ レジゴー(以下、レジゴー)」を17店舗に展開した。食品を購入する際に「手に取って商品を確かめたい」と考える消費者は少なくない。一方で、買物で最も煩わしいことの1つが「レジ待ち」だ。
レジゴーは商品バーコードを貸出用スマホでスキャンし、会計は専用レジで済ませる。レジゴーは、レジに並ばない「レジ待ち時間ゼロ」の新しい生活スタイルを消費者に提供する画期的なツールだ。
セルフレジの展開も進める。買物客自身がバーコードリーダーでスキャンするフルセルフレジを102店舗、バーコードまたはカード決済専用のキャッシュレスセルフレジを55店舗、販売スタッフがスキャンするお支払いセルフレジを164店舗に導入した。
アプリに関しては、イオン九州公式アプリをリニューアル、クーポン・お客さま参加型企画拡充やイオングループのトータルアプリ「ⅰAEON」との連携強化を図ると同時に、利用可能店舗を拡大した。
そのほか価格改定やフェース替えにも柔軟に対応できる電子棚札を17店舗に導入すると同時に、多様な情報を機動的に発信できるデジタルサイネージの活用にも取り組んだ。
店舗改革も推進した。経営統合に伴い、業態も機動的に転換しやすくなった。2021年度は、大分県の高田豊後でマックスバリュをザ・ビッグに転換するなどSMからDSへの転換を3店舗で実施した。新規出店を継続する一方で、イオン九州最古の「イオン佐世保店」(長崎県佐世保市)を閉鎖するなど、スクラップアンドビルドにも取り組んできた。
食品事業の改革も進めている。同社の食品事業売上は約3400億円と、全体の7割以上を占める中核ビジネスである。統合に伴い調達力が強化されるとともにコストダウンの実現とお値打ち価格での提供が可能となった。そのほか熊本県西原村のシルクスイートなど地産域消商品の拡充、さらには北海道セイコマートPB商品展開などイオングループの総合力を活かした商品開発にも注力した。
節目の年に業績目標を達成できるか
同社の2023年2月期の業績予想では営業収益が4770億円、営業利益が58億円を予想する。なお、同社では23年2月期より「収益認識に関する会計基準」を導入するため、前期からの増減率は公表していない。
店舗の活性化を進めると同時に、DXにより顧客の利便性向上・店舗の生産性に取り組む……イオン九州の今期の戦略は基本的に現行施策の踏襲だ。果たして思惑通りに進むのか。
アフターコロナを迎えても、九州エリア市場のV字回復は期待できない。九州には、コスモス薬品(福岡県)、トライアルカンパニー(同)といった低価格に強みを持つ地場の強敵がひしめいている。イオン九州の設立は1972年と、今年で50周年を迎える。節目の年に無事業績目標を達成できるのか、今後に注目したい。