「いいちこ」誕生秘話にみるチャレンジ精神とブランド形成の重要性
帝国データバンク福岡支店(福岡県)は毎年8月に「焼酎メーカー売上高ランキング」を発表している。最新2020年版でランキングトップの座に輝いたのは売上高625億3500万円(対前年比1.0%増)の霧島酒造(宮崎県/江夏順行社長)。9年連続の快挙だ。第2位は売上高429億6300万円(同0.1%増)の三和酒類(大分県/下田雅彦社長)。こちらも9年連続の2位を確保している。そして第3位はオエノンホールディングス(東京都/西永裕司社長)で売上高は393億5700万円(同0.8%増)。傘下の合同酒精(東京都)、福徳長酒類(千葉県)、秋田県発酵工業(秋田県)の3社が焼酎を製造している。
零細3社の合併で生まれた「いいちこ」
さて、本稿でフォーカスしたいのは、「下町のナポレオン」として知られる麦焼酎「いいちこ」をはじめ、清酒、ワイン、ブランデー、リキュールなどを生産している三和酒類(大分県/下田雅彦社長)だ。同社は、大分県にある小さな酒蔵3社が、清酒用瓶詰め機械を共同で購入したところから始まった。清酒3社は、手詰めを機械詰めに切り替えたことで相当のコストダウンを図ることができたという。
けれども当初はそれだけの付き合いにとどまり、相乗効果を生み出すことも商品競争力にもつながることもなく、先行きに光明を見出すことは難しかった。そもそも「清酒生産の南限は大分県」と言われており、温暖な気候は清酒醸造には初めから向いていなかった。しかも、九州では酒と言えば焼酎を指すのが一般的だ
そこで3社は合併し、和することによって企業規模を拡大する途を選ぶ。三和の名前の由来でもある。こうして1958年、3社は三和酒類を設立。それぞれに蓄積されてきた技術を持ち寄り、地場産品の大麦を活用し主力商品として麦焼酎の生産にも乗り出した。ところが九州は、芋の「黒霧島」や「赤霧島」を生産する霧島酒造の躍進を見るまでもなく、芋焼酎が盛んなエリア。麦焼酎はなかなか受け入れてもらえなかった。
営業部隊は必然的に東進を強いられた。広島県から関西、そして関東へと今まで清酒が中心に飲まれていた地域に攻め込んでいった。地道な営業活動はやがて開花する。清酒に飲み慣れた消費者から「軽くて飲みやすい」と徐々に評判になり、麦焼酎が売れるようになったのだ。1979年に看板ブランドとなる「いいちこ」を発売し、いまや関東・関西・中部などの大都市圏をはじめ、北米やアジアなど世界各国・地域に販路を構築している。
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