ラーメンチェーン「横浜家系ラーメン 町田商店」等を展開するギフト(東京都/田川翔社長)の21年10月期決算がさきごろ発表された。売上高は134億7400万円(前年同期比22.7%増)、営業利益が9億3600万円(同2.9%増)だった。22年10月期業績予想は、売上高170億円(同26.2%増)、営業利益17億円(同81.6%増)を見込む。
苦闘するラーメン店もある中で
躍動する3つの理由
21年10月期、そして22年10月期の見込み数字をみても、同社はコロナ禍で飲食チェーンの明暗が分かれる中、「明」で難局を乗り切った勝ち組だ。不況に強いといわれるラーメン店でさえ、過去最大の倒産件数という調査結果もあるほどの状況だが、なぜ同社がこれほど躍動し続けられるのか。その理由として考えられるのは大きくは次の3つだ。
ひとつは職人としてのこだわりを死守していること。ふたつ目は、スープと麺を工場で生産していること。最後はビジネス視点の拡大をしないことだ。
いずれも取り立て珍しいことではないかもしれない。だが、それぞれが同社のアイデンティティそのもので有機的にリンクし合うことで、無理のない持続可能な拡大につながっている。要はいわゆるフランチャイズとは一線を画し、あくまでもおいしさの追求と商売への情熱をベースに、その想いのアウトプットとして店舗を増やすという循環になっているのだ。
ラーメンフリークゆえのこだわり
同社代表の田川翔氏はもともとラーメンフリーク。中学時代からラーメン店の経営を思い描いていたほどのラーメン愛を持っている。横浜家系での修行を経て独立、独立後はスープの味が思うように出せず、店を開けなかったこともあるほどのこだわり型の人間だ。
「スープと麺を工場で一括製造」というと職人的な発想からすればやや邪道な印象もある。だが、昨今の食材製造技術は飛躍的に向上しており、納得の味を作り出すことはさほど難しくはない。むしろ、麺とスープというラーメンの最大の肝は譲れないという意味では、強いこだわりの裏返しともいえる。
こうした割り切りができる点が、田川氏のビジネスマンとしての才覚であり、急成長の源流でもある。なぜなら、ラーメン店ではスープの仕込みが最大の手間であり、売上にも深く影響し、繁盛店になれるかの分岐点にもなるからだ。多店舗化を進める上で、まさに「秘伝のスープ」を均等に分ける戦術としてベストな選択が、スープと麺の工場での一括生産というワケだ。
加盟金、保証金、ロイヤリティをゼロの理由
3つ目の「ビジネス視点の拡大をしないこと」が、ある意味では同社の独自性といえる部分かもしれない。ラーメンが好きでラーメンビジネスを始めたい。そんな思いを持った人を重用する同社は、「のれん分け」にあたって、加盟金、保証金、ロイヤリティをゼロとしている。代わりに麺とスープを仕入れてもらうことがその「条件」となる。
新規に独立する店舗にとって、うまいスープと麺を購入することはプラスでしかない。しかも初期費用が不要で、繁盛店のノウハウまでもらえるのだ。だからこそだろう。同社には、売上が低迷するラーメン店からも相談が来るという。
このきわめて理にかなったシステムで開業を希望する店舗をサポートするのが、同社のプロデュース事業だ。その名の通り、他業種や新規などの開業を場合によっては土地探しから資金調達まで支援し、蓄積した繁盛店のノウハウも惜しみなく提供する。ノウハウをしっかりと浸透させた上で、独自裁量を持つ「プロデュース店」としてのれん分けする。
成功のためのノウハウを実践し、蓄積する店舗は「直営店」だ。これまでの知見に加え、新たな施策も試行錯誤しながら、うまくいったものを秘伝のたれのようにより磨き上げ、満を持してプロデュース事業で新規出店の店舗へ開放。プロデュース店を繁盛店に育て上げるためのエキスを“醸造”していく。
同社にとっては繁盛店が増えるほどスープと麺の売上げが増大し、企業として利益がアップする。開業の初期費用よりも定額の素材収入によって長期的に潤う。加盟店も同様であり、まさにウィンウィンの関係性で関与する誰もに益があるシステムとなっている。
目指すのは世界制覇とインフラ企業
好況時に大増殖したいわゆるフランチャイズが仕組みやマニュアルありきで拡大し、景気が低迷すると苦境に陥ったのに対し、同社の“進化系のれん分け”は、やる気と食材ありきのいわば必然の拡大であり、似て非なるもの。この違いがそのままコロナ禍での明暗につながっているのは間違いないだろう。
中計で発表された3年後の2024年10月期の売上目標は250億円。21年10月期の倍近い数字となっている。そのための施策として同社が掲げるのは、店舗増を軸とした「事業拡大」と「新業態の開発」。そして、標準化、単純化、DXの推進などの「変革」だ。
今年はコロナ禍でも浅草、渋谷などに新規出店するなど、ピンチをチャンスと捉えて積極的に投資を行った同社。コロナ禍では時短営業による売上減少こそあったものの、緊急事態宣言が明けた10月以降は一気に回復、消費者の同社の味へのニーズは旺盛だ。 すでに同社はロサンゼルス、ニューヨークへ出店しているが、海外展開では1000店舗という大目標を掲げている。今期までに直営店・プロデュース店を合わせ、455店舗となった国内も同様に1,000店舗を目指す。
「目指すのはラーメンのインフラ企業」というように、同社はラーメン店の存在を極限まで高めることをゴールに据える。そのために「世の中に必要とされる企業でなければ実現できません。地元の人に愛され、地元に根付くお店でありたい。その土地になくてはならない存在になりたい」と田川氏は熱く語っている。
コロナ禍で淘汰された企業に、どれだけ「愛」があったのか…。人との接点が希薄なり、デジタル化が加速する中で、ラーメン愛にあふれる経営者が率いる同社が躍進を続けるのは決して一過性のものではなさそうだ。