焦点:企業物価上昇で「川下」に値上げ波及、消費回復に水差す恐れも
[東京 10日 ロイター] – 原材料価格の高騰が生産コストを押し上げ、食品や文具など消費財の一部で値上げの動きが出てきた。過去の原材料高局面でも見られた流れだが、今回は新型コロナウイルス禍による供給不足や脱炭素化によるコスト増といった要因も加わる。デフレが染みついた日本では値上げに対する消費者の抵抗感も強く、価格転嫁の動きが幅広い品目に広がれば家計を直撃し、進み始めたサービス消費の回復に水を差す可能性もある。
コクヨは来年1月、ファイルやハサミ、ホチキス、カッターなど金属製の文具20品目を平均約8%値上げする。日用雑貨品や食品容器、包装資材などを手掛ける東洋アルミエコープロダクツ(大阪市西区)も、来年2月1日納品分から家庭用アルミホイルの価格を15%以上引き上げる。同社によると主原材料であるアルミの先物価格は約13年ぶりの高値に到達した。
「基本的にコスト増を企業が飲まざるを得ない経済情勢」とみずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストが話すように、デフレが定着し、賃金が上がらない日本では消費者に近い企業ほど値上げがしづらい状況が続いてきた。
しかし、日銀が10日に発表した11月の国内企業物価指数(PPI)は、石油・石炭製品、鉄鋼、化学製品、非鉄金属など素原材料に近い品目がプラスに寄与し、前年比プラス9.0%と約41年ぶりの高い伸びとなった。
企業努力では吸収し切れず、物価上昇は緩やかに「川下」へ波及する動きもみせている。企業物価の需要段階別・用途別の指数では、家計によって使用・消費される「最終消費材(国内品)」の前年比上昇率が9月に2.3%、10月に2.9%、11月に3.3%と拡大してきた。
コロナ禍の特殊事情もコスト増要因に
デフレが続いた過去20年以上の間にPPIが上昇し、CPIが上向く局面は何回かあった。このうち2007─08年は原油や食料といった商品市況の高騰が物価の押し上げ要因となったことなどが現在の状況と重なる。当時は米国でサブプライムローン問題が顕在化する中、株式・債券市場から原油先物市場に資金が流入し、WTI原油先物が史上最高値をつけた。
生鮮食品を除く「コアCPI」の前年比は08年7月に2.4%まで上昇。価格変動の大きい品目を除いて算出する「刈込平均指数」の上昇率も最高値の1.1%となるなど、幅広い品目に物価上昇圧力がかかった。文具やアルミホイルのほか、小麦を使ったパスタやパンなども値上げされた。
今回は、コンテナの需給ひっ迫や北米の物流混乱に伴う輸送コストの上昇もコロナ禍の特殊事情として加わる。脱炭素化の流れも製造コストの押し上げ要因で、東洋アルミエコープロダクツが原材料とするアルミは電気エネルギーを⼤量に消費することから今後も⾼⽌まりが想定されるという。
日用品や食料品も
企業側から正式な発表はないものの、洗剤や歯磨き粉、衛生用品などの日用品メーカーも来年の新商品投入時に価格転嫁するとの見方が多い。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券でトイレタリー・化粧品セクターを担当する佐藤和佳子シニアアナリストは、花王やライオン、P&G、ユニ・チャームといった大企業によって市場の寡占化が進んでおり、「比較的価格に転嫁しやすい」と指摘する。
こうした日用品は新製品の発売やリニューアルの際、「除菌」や「歯槽膿漏や歯周病に効く」といった付加価値をつけることで、人口構成比上も大きいシニア層が手に取りやすく、結果的に値上げが実現できる、と佐藤氏はいう。
値上げの動きは年明け以降、食料品でも広がる。冷凍食品や、パスタ、パンといった小麦粉製品、調味料、スナックなど幅広いカテゴリーで行われ、まだ正式に値上げを公表していないのは即席めんや清涼飲料くらいしか見当たらない。食品メーカーの利益率は平均5%ほどでそれほど高くなく、コスト上昇分を価格転嫁しなければ赤字になったり、利益が出なかったり、ぎりぎりのところにいる。
大和証券で食品セクターを担当する守田誠シニアアナリストは「現在、小売店のところまではどのカテゴリーも値上げオーケーという雰囲気。この値上げを消費者が受け入れるのかに議論が集約されてきた」と話す。
しかし、値上げはもろ刃の剣で、企業にとってはコスト上昇を吸収できる一方、販売数量が減少する恐れがある。売り上げの減少が政府の掲げる賃上げを阻み、さらに消費を落ち込ませる悪循環に陥るリスクがある。
農林中金総合研究所の南武志主席研究員は、「これまで落ち込んでいたサービス消費の持ち直しが現在進んでいるが、価格が上がっていくとその機運が削がれることもあり得る。リベンジ消費のようなものが大きく出てこないかもしれない」と話す。