[ワシントン 20日 ロイター] – 10年に及ぶ景気拡大が終わりにさしかかった2018年。「晴天」の世界経済を引っ張っていたのは、減税と財政支出で国内外を潤す米国だった。
しかし現在、世界経済を回復から引きずり下ろしかねないのもまた、米国の政策だ。同国の新型コロナウイルス危機への混乱した対応は、世界景気の回復持続を脅かす最大のリスクとなっている。
メキシコから日本に至るまで、当局者は既に神経をとがらせている。ドイツは輸出が打撃を被り、カナダは米経済の成長に悪影響が広がれば、その余波は免れないと案じる。
国際通貨基金(IMF)は米経済に関する報告書で「世界的に今後数カ月から数年間は困難な時期となるだろう。特に懸念されるのは新型コロナの感染者数がまだ増え続けていることだ」と指摘。米国で貧困者が増え、「社会不安」が広がることを経済成長のリスクの1つに挙げた。
「今後数年間にわたり、米国民の大部分が生活水準の大幅な悪化と厳しい経済的困窮を強いられるリスクがある。ひいては需要がさらに弱まり、経済への長期的な逆風が強まりかねない」という。
この認識の裏には、一連の厳しい現実がある。米政府は4、5月に経済活動を制限したのに伴い、約3兆ドル(約321兆円)の景気対策を打ち出した。しかし対策が期限を迎えようとしている今、同国では新型コロナ感染症が猛威を振るっている。同国の感染者数は360万人を超え、死者は14万人に及んだ。1日の新規感染者数は5月半ばから3倍に増えて7万人を超え、4月から7月にかけて徐々に減少していた死者数の7日移動平均は増加に転じた。
一方、諸外国では常識になったマスク着用といった問題でさえ、米国では意見が対立。テキサスやカリフォルニアといった一部の州は制限措置を再開している。米国の就業者数は2月の水準を1330万人も下回ったままだが、アナリストは既に景気回復が頭打ちになる可能性を指摘している。
泣き面に蜂
国内で新型コロナ・景気対応に追われる主要国にとって、これは泣き面に蜂だ。
米国経済は世界の総生産(GDP)の約4分の1を占める。その大部分はサービス関連で、新型コロナの影響を直に受けるのはレストランなど世界経済との結び付きが弱い業種とはいえ、負の波及効果が全く無いわけではない。失業者が増えれば消費が減り、輸入も減る。景況感の悪化は、諸外国で生産されることの多い設備や資材への投資減退につながる。
米国の輸入額は1─5月に13%超、約1760億ドル減った。
5月のドイツの対米輸出は前年同月比36%も落ち込んだ。ドイツは新型コロナ感染症の封じ込めで世界屈指の成功を収めたと考えられている国だ。
日本の景気回復スピードは、米国が感染症封じ込めに成功するかどうかに直結するとみられている。
第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストは、米国で新型コロナの感染拡大が止まらず、さまざまなアジア諸国からの対米輸出が伸びなければ、日本の景気回復は確実に遅れるだろう、と言う。
カナダとメキシコ
IMFは、今年の米経済がマイナス6.6%成長になると予想している。しかし国境を接するカナダ銀行(中央銀行)が予想する米経済成長率はマイナス8.1%と、もっと悲観的だ。
感染症がさらに拡大して成長率見通しが一段と悪化すれば、カナダ経済を直撃するだろう。対米輸出は同国の輸出の約4分の3を占める。
米国の南で国境を接するメキシコでも、新型コロナの感染者数が記録的な勢いで伸びている。しかし、ロペスオブラドール大統領は、米国の数字を引き合いに出して自国の対応への批判をかわしてきた。
メキシコ経済は今年、10%かそれ以上のマイナス成長が予想されている。
大統領は、今月1日に発効したUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)によって貿易と投資に弾みがつくと期待するが、経済見通しを巡る悲観論が広がっている。
米大手民間調査機関コンファレンス・ボード(CB)のシニアエコノミスト、エリザベス・クロフット氏は、米国で失業が増えて所得が減れば、世界的に消費に悪影響が及ぶと指摘。「1歩進んで2歩下がる」状態だと語った。