焦点:日本のGDP戦後最悪へ、デジタル化苦戦で脱コロナに数年も
[東京 18日 ロイター] – 実質国内総生産(GDP)は1─3月期の段階では年率1桁の減少にとどまった。ただ、新型コロナウイルスの影響が本格的に出てくる4─6月期は20%前後の落ち込みが予想され、日本経済は戦後最悪の状態となりそうだ。緊急事態宣言の解除後も、経済規模がコロナ前の水準に戻るには1年以上かかるとの見方もある。感染防止と経済再生のキーは「デジタル化」だが、政府や企業にとって苦手分野である現状が浮き彫りとなっている。
4─6月期、大恐慌との比較に
「1─3月より4─6月は厳しい状況になる。戦後最悪の危機といえる」──内閣府幹部は、リーマン・ショックより経済悪化は深くなり、長期化すれば金融システムに波及する恐れもあることから昭和大恐慌と比較する方が適切だとの認識を示している。当時は世界大恐慌の波に飲まれ、日本でも経済と金融システム崩壊が起きた。
エコノミストの経済見通しを集計した5月の「ESPフォーキャスト」調査では、4―6月期のGDPはマイナス21.3%もの減少が予想されている。安倍晋三首相がいう「戦後最悪」の経済状況とは、比較可能なGDP統計で、戦後これほどの落ち込みがなかったという意味だろう。
政府は、緊急経済対策などが2021年にかけてGDPを4.4%押げ上げる効果があると試算しているが、実際は人々の行動次第でもあり、不透明な点が多い。
ESP調査では7―9期のGDPは8%台に上昇する見通しだが、3四半期連続の大幅なマイナスの後にしてはかなり小幅な伸びにとどまりそうだ。内閣府としては、元の水準に戻るには相当時間がかかり厳しい経済状況が続くとの見立てだ。
20年度を通してみても、大方の調査機関が5%を超えるマイナス成長となるとの見通しを示す。リーマン・ショックのあった08年度のマイナス3.4%と比較しても、相当深い落ち込みになりそうだ。
一部の地域では5月14日に緊急事態宣言が解除されたが、「需要はすぐには戻らない」と前出の内閣府幹部はみている。
第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストの試算では、コロナ感染リスクの影響に伴う経済損失額は5月31日までで合計額を45兆円。緊急事態宣言が39県で解除されても、7.4兆円を改善させるに過ぎないという。
熊野氏は、感染リスクが再燃する可能性が残っていることを考えると、政府も一気に需要刺激策をとったり大型公共事業を積み増して総需要政策をすることはしばらく手控えざるを得ないともみている。
政府は経済回復に軸足、ネックはデジタル化
とはいえ、政府としては、感染拡大回避だけでなく経済活動の再開に軸足を移し始めている。
14日に開催された経済財政諮問会議では、感染拡大回避と経済活動の両立を目指した議論が行われた。影響の大きい観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテイメントなどの活性化を目指した「GoToキャンペーン」の実施前倒しなど、早くも自粛からの転換支援への提言がなされた。同時に、第2、第3波にも備えつつ、経済活動と両立する「検査・追跡・救命と感染遮断」を徹底して進められる体制」について国が基本方針を示すべきとされ、そうした体制が整備できなければ、経済活動再開もままならないとの認識も示された。
ただ、従来と同様の経済活動や日常が取り戻せるのはまだ先になるとの指摘も目立つ。そして、感染回避と経済回復の両立に向けて「デジタル化」がキーとなるとの認識は、以前より強まったようだ。
BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏は、このままでは22年1-3月になってもGDPの水準は消費増税前の19年7─9月を2.1%下回ると試算し、そうした中で広がりを見せ始めた「デジタル化」への期待をあげる。ただ「それらは日本の経営者が最も苦手とする分野だ」と指摘する。
実際、緊急経済対策の現場対応においても、地方税の納税猶予、小学校休業等対応支援金、雇用調整助成金、政策金融公庫の特別貸付などは押印や書類提出が必要となっている。
企業でもテレワークを導入しているところは全国的に少なく、厚生労働省の4月12─13日実施の調査によるとオフィス勤務のテレワーク実施率は全国平均で26.8%にとどまった。東京でも51%と、政府が呼び掛けたオフィス出勤者の最低7割削減には程遠い状況だ。
デジタル投資を期待される企業にとっては「設備投資は、感染の影響終息後の産業地図の変化を注視してから実行することになる」(4月ロイター企業調査)などの声もあり、新規投資に踏み切るのはポストコロナの時代にどのような構造変化が起きているか見極めたいと思惑もありそうだ。