価格転嫁持続が焦点=「好循環」実現へ正念場―日銀短観
日銀の9月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業の景況感は前回6月調査から総じて横ばいとなったが、高水準で維持された。原材料費や賃金の上昇を価格転嫁する動きが進み、収益環境が改善していることが背景だ。今後は、出遅れている中小企業を含め幅広く転嫁の流れが持続し、来年の春闘で再び大幅な賃上げを果たせるかが焦点。日銀が目指す「賃金・物価の好循環」実現へ正念場を迎えつつある。
短観の販売価格判断指数(DI、「上昇」から「下落」を引いて算出)は、大企業製造業でプラス26(6月はプラス29)と小幅に下落。非製造業でプラス29(同プラス29)と横ばいとなった。8月以降の急速な円安修正で輸入物価の上昇圧力が減退しつつあることなどから足踏みとなったが、日銀は人件費比率が高い非製造業を中心になお強い転嫁姿勢が維持されているとみている。
企業からは「前年度の価格引き上げの効果が今年の収益に表れている」(外食大手)、「値上げは収益構造改善に効果がある」(大手食品メーカー)と手応えが聞かれる。
ただ、転嫁には濃淡もある。帝国データバンクの調査では、7月時点の企業の価格転嫁率は過去最高の44.9%となったが、全く転嫁できない企業も1割を超えた。2月調査と比べ、転嫁率が拡大した企業は3割程度で、「価格転嫁がなかなか追い付けない状況」(帝国データ)となっている。
特に中小企業には「人手不足に伴う防衛的な賃上げ」(日本商工会議所)を迫られる例も多く、転嫁遅れが収益を圧迫している。連合の芳野友子会長は、次期春闘へ「中小、小規模事業者(の賃金)をどれだけ底上げできるかがポイントになる」と強調。価格転嫁の取り組みを周知徹底する考えを示す。
一方、物価上昇の長期化で「買い上げ点数減の中、牛肉から豚、豚から鶏にシフトして節約志向が続いている」(日本チェーンストア協会)とされ、値上げがどこまで消費者に受け入れられるかは未知数だ。また、円安によって好業績を挙げてきた輸出企業にも、円高進行や海外経済減速に伴って業績の先行きに不透明感が漂ってきた。
日銀の植田和男総裁は、来春も「しっかりとした賃上げが続く」と期待し、先行きの消費を下支えするとみている。経済・物価動向が想定通りに推移すればさらなる利上げに踏み切る構えだが、日本経済を取り巻く下押しリスクは依然大きい。