TikTok Shopは「黒船」になるか 米国での急成長と、日本上陸の影響

岩田 太郎(在米ジャーナリスト)

Z世代に人気のショート動画SNS「TikTok」で、ライブ配信や短編動画を通じて商品を発見・購入できる「TikTok Shop」が、2025年6月30日に日本でサービスを開始した。すでにTikTok Shopは米国や一部EU諸国を含む世界20カ国以上で展開されており、米国では23年9月にローンチし、24年の売上高は驚異の約90億ドル(約1兆3363億円)に達している。日本でも、「楽天市場」や「アマゾン」を脅かす“黒船”となるのか。米国での事例を手がかりに、その可能性を探る。

5./15 WEST/iStock

衝動買いを誘発し、売上高は急速に成長!

 米国ではSNSを通じたeコマースが右肩上がりで成長中だ。米金融大手キャピタルワン(Capital One)によると、18年に139億ドル(約2兆円)に過ぎなかった市場規模は、24年には906億ドル(約13.5兆円)に達した。

 シンガポールの調査会社モメンタム・ワークス(Momentum Works)の推計では、TikTok Shopの米国における24年の売上高は約90億ドルに上った。これは、SNS上のeコマース市場の約1割を占める数字である。SNS上の米eコマース市場は28年に1414億ドル(約21兆円)まで成長する見通しであり(図表1)、TikTok Shopはその成長を牽引する存在になると見られている。

図表1(Capital One Shopping)
図表1(Capital One Shopping)

 TikTok Shopは、ショート動画やライブ配信にショッピング機能を組み込んだECプラットフォームである。視聴コンテンツと商品情報が一体化しており、ユーザーは気になった商品をそのままアプリ内で購入できる。視聴・共感・購買といった行動がシームレスにつながる設計が特徴であり、インフルエンサーによる紹介やアルゴリズムによるレコメンドが購買を後押しする仕組みとなっている。

 TikTok Shopが支持される背景には、まず、平均的な商品価格が19ドル(約2800円)と、若いZ世代消費者にも手の届くお手頃な設定であることが大きい。

 さらに、購入者がストレスなく買物を完結できるよう、ショッピング機能つきの動画やライブ配信に加え、ブランドごとの商品ショーケースや「ショップ」タブによる商品検索、安全な決済手段など、購買プロセス全体がアプリ内で完結する設計になっている。視聴・発見・購入の各ステップがシームレスにつながる構造が、ユーザーの利便性を高めているのだ。

 一方で、販売者やインフルエンサーにとっても、アフィリエイトによる報酬連携や広告出稿機能などを活用しやすい環境が整っており、集客や販促を効率的に行える点も、TikTok Shopの支持を後押ししている。

インフルエンサーとの連携で“バズ”を生み出す仕組みを構築

 インフルエンサーとの連携もTikTok Shopの拡散力と購買力を支える重要な要素だ。平均的なTikTokユーザーは1日に1回以上アプリを開くとされており、プラットフォームと日常的に接触している。さらに、TikTokユーザーの58%がTikTok Shopの利用経験がある(図表2)

(図表2)TikTokユーザーの58%がTikTok Shopの利用経験がある。(AMZScout)
(図表2)TikTokユーザーの58%がTikTok Shopの利用経験がある。(AMZScout)

 この習慣を生かし、TikTok Shopに出品する多くのブランドは、ユーザーの支持を集めるインフルエンサーと契約を結んでいる。なかでも最大手のブランドでは、5000人から8000人規模のインフルエンサーが同時に製品を紹介する仕組みを構築済みだ。

 こうした多層的な発信体制に、TikTokのアルゴリズムによる拡散機能が加わることで、ユーザーの興味関心に応じて動画が効果的に届けられる。結果的に、その商品が“今買うべきアイテム”として爆発的に拡散され、短期間で“バズ”を生むことも少なくない。

 さらに、TikTok ShopではVR(仮想現実)技術を使った試着機能も備えており、ライブ配信中にインフルエンサーが実際に商品を紹介しながら購入を促すスタイルが定着しつつある。こうした体験的要素とレコメンドの掛け合わせにより、衝動買いをするユーザーが増えるわけだ。

 実際、米国の調査によると、TikTok Shopでの購入理由としてもっとも多かった回答は「たまたま好みの商品を見つけた」(約71%)であり、計画的ではなく偶発的な衝動買いが中心であることが裏づけられている(図表3)

(図表3)米TikTok Shopに購入動機(複数回答)を見ると、およそ71%の1位の理由が「たまたま好みの商品を見つけた」となっており、衝動買いが多いことを裏付ける。(Capital One Shopping)
(図表3)米TikTok Shopに購入動機(複数回答)を見ると、およそ71%の1位の理由が「たまたま好みの商品を見つけた」となっており、衝動買いが多いことを裏付ける。(Capital One Shopping)

 この構造は、実店舗のファストファッション売場における“ついで買い”や“店員の接客”のような体験を、TikTokというSNS空間に置き換えたものとも言える。つまり、インフルエンサーという信頼の媒介を通じた、新しいかたちの衝動消費が、デジタルコマース上で再現されているのだ。

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