第2回 「サプライチェーンの最適化」を実現した注目サービス3選!
売り手にも買い手にもメリット大! 注文から1週間で届くスーツのオーダーメイドサービス
アパレルの領域では、オンワード樫山(東京都)が提供するスーツのオーダーメイドサービス「KASHIYAMA the Smart Tailor」(カシヤマ・ザ・スマートテーラー)」に注目です。同サービスの流れは次のとおり。まず店舗で顧客の洋服サイズを採寸し、そのデータを中国の工場に送信してすぐに現地でスーツを製造、1週間後には顧客のもとに商品を直送するというものです。
オンワード樫山にとっては、オーダーを受けてからスーツをつくるので在庫を持つ必要がありません。ですので余剰在庫をセールすることもなく、常に適正価格で販売することができます。一方で顧客にとってはオーダーしてから受け取りまでの期間が約1週間と非常に短いことが大きなポイントです。スーツのオーダーメイドといえば数週間~数カ月はかかることが普通ですので、このリードタイムの短さは驚異的です。
ちなみにスマートテーラーでは配送コストを下げるため、商品を真空状態にして梱包をコンパクトにしています。そのため商品到着時はある程度シワができていることがあるのですが、1時間ほどハンガーなどに吊るしておけばシワは消えるように設計されています。
「サンプル製造」をやめたトミー・ヒルフィガー
最後に紹介したいのは、米アパレルブランドの「トミー・ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」の事例です。アパレル産業では商品化を判断するあたって、まずはパターンを描いてサンプルを製造するという手順を踏むことが一般的です。しかしトミー・ヒルフィガーは3Dデザインの技術を活用し、パソコンやタブレットの「画面上」で完成図を見られるようにしています。サンプル製造というプロセスを省くことで、企画から製造にかかる時間を一気に短縮できるというわけです。
さらには、サンプルの画像をあらかじめ顧客とも共有することで、どういった色味やデザインの商品が”売れ筋”になるのかをある程度把握することもできます。つまりサンプルの段階で需要予測が立つため、在庫ロスの削減などサプライチェーンの最適化にもつながります。実際、トミー・ヒルフィガーはサプライチェーンにおけるリードタイムを2分の1に短縮することができたのです。
適正量を適正価格で売ることが小売のスタンダードになっていく
ここまで触れてきたように、デジタル活用をベースとした「サプライチェーンの短縮化」が、在庫リスクや廃棄ロスを低減し、最適なサプライチェーンの構築につながっているのです。オンワード樫山のスマートテーラーの事例のように、常時適正価格で販売できるようになったために、セールを基本的に行わないというブランドも増えています。
大量につくって安く売るという時代は終りを迎えつつあり、「適正な価格で適正な量を供給する」ことが今後のリテール産業における主流になっていくことはほぼ間違いないでしょう。そうしたなかで、前回お話ししたようなD2Cブランドのように、顧客と直接つながり、顧客の志向や傾向をダイレクトにつかむことができている企業は、ますます競争有利な立場になっていくでしょう。
「ファストファッション」の代名詞として知られるH&MやZARAも、今日では大量生産・大量消費のビジネスモデルを否定し、サステナブルなビジネスモデルの確立へと舵を切ろうとしています。これは既存市場が成熟し、今後も大幅な拡大が見込めないことに気づいたためです。こうした傾向は人口減少が著しい日本でこそ、活発化して然るべきではないでしょうか。も、同様の取り組みを率先して取り組むべきではないでしょうか。今ある”ムダ”を削減してサプライチェーンを最適化する――。これは、日本の流通産業における重大なテーマの1つです。