アングル:若者の拡散力に賭けるAbemaTV、地上波超える野望
[東京 18日 ロイター] – 10代の女子高生から絶大な支持を集める雑誌「Popteen(ポップティーン)」の表紙を飾る専属モデルの座を獲得するのはだれか──。2月22日夜、都内のテレビスタジオで「あやみん」や「きょうきょう」など可愛らしいニックネームを持つ10代のモデル12人が、緊張した面持ちでその瞬間を待っていた。
<若者をターゲットに>
インターネットテレビ「AbemaTV」で人気急上昇となった「Popteenカバーガール戦争」は、日本のテレビの新しい方向性を示しているのかもしれない。
米国の新興メディア、ネットフリックスなどはコストがかかる「シリーズもの」のドラマやスターが出演する映画などを配信することで伝統的なテレビ局のビジネス領域に侵食しているが、AbemaTVは低予算の中で、ソーシャルメディアで拡散力を持つ世代に焦点を当てた番組づくりを進めている。
この戦略は何百万人もの若い視聴者を引きつけるとともに、もうかるビジネスに大化けする可能性があるとして、広告主や業界アナリストも納得させた。
地上波などのテレビ局は、全世代を意識した番組づくりをしているため、若者にとっては物足りなく感じることもある。
これに対し、AbemaTVは若者に的を絞っているだけに展開が速い。サイバーエージェントの谷口達彦執行役員(AbemaTV編成制作本部制作局長)は「情報処理に長けた世代なので、問題なくついてくる」と指摘。ドラマは「イメージだが、2倍の脚本をぎゅっと詰め込んでいる感じだ」と語った。
<赤字続きも先行きに自信>
AbemaTVは、2015年4月にサーバーエージェントとテレビ朝日が共同で立ち上げた。
サイバーエージェントは、インターネット広告やゲームとともに収益の柱として育てたい考えだが、足元ではまだ実績を出せていない。AbemaTVの2018年9月期の営業損益は、先行投資がかさみ208億円の赤字だった。2019年9月期も200億円の営業損失を見込んでいる。
インターネットテレビを巡っては、海外プレーヤーの参入も相次ぎ、競争環境は厳しさを増している。
彼らは保有する豊富なコンテンツに字幕を付けて提供するだけでなく、ネットフリックスの恋愛リアリティーショー「テラスハウス」のように日本発の番組も提供しながら、日本の視聴者を取り込んでいる。
しかし、サイバーエージェントの藤田晋社長は、事業の先行きに自信を示す。
AbemaTVは2016年4月の開局以来、ダウンロード数が3700万件にのぼり、1週間あたりの視聴者数(WAU)はこの年末年始に918万人に達した。
ゴールドマン・サックス証券のアナリスト、杉山賢氏は2020年9月期に事業が黒字転換し、2024年9月期に売上高が1621億円、営業利益が721億円になると予想している。
最終消費者が対象の企業は、インターネットで効果的な広告機会を模索している。その際、問題となるのが広告を出すにふさわしいコンテンツ不足だ。杉山氏は「インターネットではプロがつくるコンテンツが必要とされているが、特に日本では不足している」と語った。
良質なコンテンツを提供できれば、広告売り上げを伸ばせる余地は大きい。
<ソーシャルメディアでの反応>
AbemaTVは、オリジナルの生放送コンテンツやニュース、音楽、スポーツなど約20チャンネルを無料で視聴できる。ソニーの4Kテレビ「ブラビア」などにAbemaTVボタンを搭載、伝統的なテレビ局の番組視聴者も取り込みながら、視聴者数を増やしている。
有料ビデオやダウンロード機能などを備えた月960円の有料会員は、この1年間で約8万人から35万8000人まで増えた。今後は広告と課金の2本柱で収益を拡大していく。
AbemaTVのヒット番組には、元SMAPメンバーが出演した「72時間ホンネテレビ」や、恋愛リアリティーショー「オオカミくんには騙(だま)されない」シリーズなどがある。
「オオカミくん」は本気で恋をしたい女子高生が、イケメン男子とデートを繰り返しながら恋に落ちて行くまでを追いかける番組。
イケメン男子の中には、気を引くために嘘をついている「オオカミくん」が紛れ込んでおり、視聴者は投票で「オオカミくん」を脱落させることができる。
「Popteen」番組も視聴者参加型で、視聴者ランキングは専属モデル選びの重要な要素となった。制作局の月岡愛理氏は「単に可愛いというよりも、自分の弱いところなどをさらけ出した子が結果的に得票につながった」と話す。ソーシャルメディアでの反応が番組の行方を盛り上げた。
<テレビに迫るネット広告>
サイバーエージェントが60%、テレビ朝日が40%を出資して設立したAbemaTVは昨年10月、電通と博報堂DYメディアパートナーズへの第三者割当増資を実施。現在の出資比率は、サイバーエージェントが55.2%、テレビ朝日が46.8%、電通が5.0%、博報堂DYメディアパートナーズが3.0%となっている。
この出資により、AbemaTVは広告拡販に加え、コンテンツ調達の強化を目指す。
電通は2月、2018年のインターネット広告費が前年比16.5%増の1兆7589億円になったと発表した。5年連続の2桁成長となり、地上波テレビ広告費1兆7848億円に迫る数字となっている。
電通の曽我有信・最高財務責任者(CFO)は「新しいメディアを育てていきたい」と語った。インターネットテレビが、伝統的テレビを超える日はそう遠くないのかもしれない。
(サム・ナッセイ 翻訳編集:志田義寧)