コロナ後の消費変化、小売業が対応すべき5つのポイントとは
2021年度に小売業は、4年ぶりの増益を実現した(図表)。さらに主要35社は2022年度も16%の営業増益と連続増益を計画している。コロナ禍で社会が大変だったなか、人々の生活を支えてくださった小売業の皆さんに深く謝意を表したい。
一方、小売業の経営環境は大きな変曲点を迎えている。各社の業績と業界ポジションは、変曲点をどう乗り越えるかにかかっている。本稿では、小売業がこの変曲点をどう乗り越えるかアドバイスしたい。変曲点とはコロナ禍の終焉だ。東京都医師会は6月14日、新型コロナウイルスの位置付けを季節性インフルエンザと同じ分類まで引き下げ、行動制限を緩和すべきと発表した。
実際に足元でコロナは沈静化しているが、5月のチャネル別販売動向をみるとその影響が明確に出ているのがわかる。食品スーパー(SM)、ドラッグストア(DgS)、家具・ホームセンター(HC)からコンビニエンスストア(CVS)と百貨店に消費者が買い場を変更しているのだ。
既存店増収率をみても、SMのオークワ(和歌山県)が対前年同期比3.4%減、DgSのツルハホールディングス(北海道)も同2.9%減、家具ではニトリ(北海道)が同3.0%減と苦戦した。一方、CVSのローソン(東京都)とセブン-イレブン・ジャパン(東京都)が同2.6%増、百貨店では三越伊勢丹(東京都)が同60.3%増と好調だ。
では今後、消費はどう動くのだろうか。マスコミの主張は「物価高で消費者は生活が苦しいに違いない」とするものだ。しかし最新5月の経済データを冷静に見ると、消費者はガチガチの生活防衛をしていない。
消費者物価は対前年比2.5%増だが、現金給与総額も同1.7%増となっている。東証プライム企業の業績は対前年度比52%増の営業増益で、今上期も同10%増と好調に推移している。好業績を背景に夏の賞与も同7%増となり、残業時間も同6%増と消費者は忙しくなっている。しかもインバウンドが再開し、「県民割」など国内消費を活性化させる政策も打ち出された。こうしたプラス効果が、消費を盛り上げるだろう。
こうした消費変化に小売業はどう対応すべきか。対策を5つ提案したい。
1つ目が活発な消費行動を支える品揃えへ修正を急ぐことだ。できるだけ早く、コロナ関連商品の在庫を減らし、活発化する消費へ品揃えを切り替える必要がある。しまむら(埼玉県)の5月の既存店増収率の好調(しまむら業態:対前年同期比1.3%増、アベイル業態:同13.1%増)は、外出需要への商品の切り替えが主な理由だ。
2つ目は具体的な品揃えについて、生活必需品は「お買い得感・まとめ買いプラスポイント」をアピールするのがよいだろう。ガソリン代や光熱費が高騰しているため、「節約しながら楽しみたい」というニーズを満たそう。
3つ目は、嗜好品は「商品価値とブランド」を軸に、「楽しさ」と「付加価値」をアピールする売場づくりをすることだ。値上げが続く嗜好品は、消費者の反応が厳しいかもしれない。しかし、1~2年のスパンで考えると、メーカーと協力して、売場の魅力をアップさせる販売政策を強化すべきだ。たとえば、コーヒーであれば、「ふぅとする安らぎ」「生活へのうるおい」「人とのつながりの回復」といったメッセージを発信するのが効果的だろう。
4つ目は、業績計画を見直すことだ。コロナ禍は約100年前のスペイン風邪以来の感染症流行だ。つまり100年に1回のことが起き、それがいま終わろうとしている。よって、業績計画は前年度をベースとせず、3年前の水準をベースに考え直す必要があり、現実的な水準へ下方修正すべきだろう。2年後、5年後を考え、コロナ禍で発揮した社会との信頼を維持・強化し、さらなる社会変化を乗り越えるイノベーションを模索しながら、競争力を強化しなければならない。
5つ目は業績回復時に必要条件となる「SDGs経営」の強化だ。筆者は6月に、全国スーパーマーケット協会、CGCグループ、流通業だと、アークス(北海道)やアクシアル リテイリング(新潟県)、セブン&アイ・ホールディングス(東京都)などの協力を得て、『小売業の実践SDGs経営』を上梓した。データと事例分析を通じ、SDGsの取り組みが業績や売上拡大につながるプロセスを解説した。長くお世話になっている読者の皆さんに、少しでも参考になると幸いだ。
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