第2回 米小売業のAI活用の現状

岩田太郎(米国在住ジャーナリスト)
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「AI展開は遅れている」
さらなる加速の呼びかけも

 この報告書を受けて、米小売のエキスパートが情報や意見を交換するサイトの『リテール・ワイヤー(RetailWire)』では、「本当にAIの採用はペースが速すぎるのか」について、活発な討論が行われた。多岐にわたる意見が出されたが、論点は「AIとは何か」というそもそも論に始まり、「データ活用のプロセスでいかに顧客のプライバシーやデータを守るのか」「AI展開は速すぎるのではなく、遅れている」などの声も出て、さながら百家争鳴の観を呈した。

 小売におけるオムニチャンネル化を支援するカナダの企業TakuLabsの共同創始者であるカレン・ウォン氏は、「この議論におけるAIとは、本物のAIなのか、名ばかりのAIなのか。もし単なる『自動化』という意味でAIという用語を使っているのなら、本物の(高度な)AIの展開はペースが遅すぎると言える」と発言し、実際にはAI導入が遅れているのではないかと問題提起を行った。

 日用消費財を専門に分析を行うアナリストのベンキー・ラメッシュ氏は、「最近、ニューヨーク州レビントンにあるウォルマート(Walmart)のAI研究所や店舗を訪問したが、数千のカメラが装備されているにもかかわらず、スキャニングやAI分析目的で利用されているようには見えなかった。これは、コストが問題なのではないか」と述べ、テクノロジーリーダーのウォルマートでさえ利用が遅れていると指摘。実際の運用の難しさが浮き彫りとなった。

 運用面については、「データを互いに突き合わせて分析することなく、それぞれ孤立させたままでは、もったいない」(ケンブリッジ・リテール・アドバイザーのマネージングパートナーであるケン・モリス氏)、「質の悪いデータではなく、『クリーン』なデータを単一の集積場にまとめることが肝要だ」(米通信大手ベライゾンの小売流通担当のデイビッド・ニューマン氏)、「確かにAIが所期の成績を挙げていない部分もあるが、AIなくして経営を行うことは、選択肢に入っていない。できるだけ早く失敗から学び、常に改善していくのが最適だ」(データ統合運用企業インタラクティブエッジの共同創業者のゼル・ビアンコ氏)などの声が聞かれた。

 こうした意見をまとめたのが、グローバル・ストラテジック・コンサルティングのマシュー・パビッチ常務だ。彼は、「現実には、AI導入は遅れている。今日の複雑で深化のスピードが速い小売業界においては、より精度が高く、内容の深い決断を下すためにAIは必須なのだ」と主張した。

 一方で、「顧客の信頼を勝ち取り、維持すべく、小売企業はAI運用においてプライバシー保護を徹底しなければならない」(シェパード・プレゼンテーションズのシェップ・ハイケン氏)など、慎重さを求める意見も出された。

 このように、すでに不完全なままの形で実戦投入されるAIに戸惑いながらも、米小売リーダーの多くは、「失敗しながら学ぶ」道を選択しているようだ。

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