メニュー

「AIモデル」起用で売上増!三越伊勢丹が提供する新撮影サービスとは

三越伊勢丹(東京都/代表取締役社長執行役員 細谷敏幸)が運営する「ISETAN STUDIO」は、2022年よりB2B向け撮影サービスの提供を開始。2024年よりAI技術で生成したモデルをECサイト「三越伊勢丹オンラインストア」に起用している。その狙いと今後の展開について、同社オンラインストアグループデジタルベース運営部の石井健二マネジャーに話を聞いた。

三越伊勢丹が「ささげ業務」を展開

スタジオでの採寸の様子

 B2B 向け撮影サービスを提供する「ISETAN STUDIO」は、三越伊勢丹の社員約90人がECサイト運営に欠かせない撮影・採寸・原稿作成を手掛ける「ささげ業務」を事業として展開している。

 伊勢丹新宿本店にほど近いパークシティイセタン1に専用スタジオを構え、バイヤーや店頭販売の経験者をはじめ商品流通・小売に深く携わってきたエキスパートが、消費者目線で上質なアイテムを紹介する。そのノウハウを外販し、モデル撮影、ジュエリー・アクセサリー撮影、食品調理・盛り付け画像の撮影といったサービスを提供する中、AI model(東京都)との協業で新たに加わったのが「AIモデル」の撮影だ。

スタジオ外観

 AIモデルとは、生成AIを活用して、企業が独自に生成した専属のファッションモデルのこと。

AIモデルの起用はEC運営の課題解決、消費者の価値創造につながり、高い顧客満足を提供できると考えている」と石井マネジャー。2月に開催されたファッション・ライフスタイル雑貨展示会に出展し、AIモデルを実装した撮影サービスをPRしたところ、反響は上々で問い合わせが増えているという。

商品はすべて実物を撮影

スタジオでの撮影の様子

 テスト利用を経て受注に至った企業がすでに複数社あり、展開拡大の手応えを感じているそうだ。実在する人をモデルとする場合は、撮影の現場に呼ぶだけで費用が発生し、掲載できる期間は契約で制限される。また準備に手間がかかり、モデルが着て撮影する商品をあらかじめ集めておく必要がある。それがこれまでの常識だった。

 ところが、AIモデルの場合は一度生成すれば、商品の画像と組み合わせるだけで着衣画像の作成が可能で、コストと撮影の手間を抑えられる大きなメリットがある。AIモデルの顔を生成するにあたっては、ブランドコンセプトやイメージ、顧客の嗜好を踏まえて設定。商品についてはすべて実物を撮影しているという。

AIモデル起用で3ショップが売上向上

AIモデルの使用例

 ECの商品画像は、モデルの着衣に限らず、平置き、ハンガーに掛けた「吊るし」、マネキンやトルソーに着せる見せ方もある。しかし、モデルに着せて撮影した画像の方が、強く印象に残り、着用時を想像しやすいため、購入率が高くなる傾向がある。

「商品を直販するメーカーやSPA企業なら、撮影の手間はそれほど負担にならないかもしれないが、私たちを含めたリテールの事業者にとっては、複雑な商流に対応しつつ、デジタル技術を活用して、いかに効率化をはかるかが課題だった。その解決につながる取り組みになっていると自負している」(石井マネジャー)

「三越伊勢丹オンラインストア」では「リ・スタイル」「プライムガーデン」「クローバーショップ」の3つのECショップが、AIモデルを起用。3月に実装されて以来、売上は好調で、前年と比べて大きく伸びた。AIモデルの画像は隅に「model:generated by AI」とクレジットが入っているが、ぱっと見ただけでは、実在するモデルとの違いを判断することは難しい。

「お客さまに満足いただくための手段として、提供する撮影サービスに新しくAIモデル撮影が加わり、選択肢の一つとなった」と石井マネジャー。あくまでもポイントは、商品がサイトユーザーである消費者の目に留まり、魅力的に映るかどうか。その点で、バイヤーや店頭販売を経験した“百貨店業務のバックボーン”がある「ささげ業務」のエキスパートが、現場の声を聞きながらAIモデルを生成することが、撮影のコストや手間の削減だけでなく、反響の獲得という大きなメリットを生み出しているといえそうだ。

グループ内外に起用メリットをアピール

三越伊勢丹オンラインストアグループデジタルベース運営部の石井健二マネジャー

 社内で長時間にわたる議論をするとともに、法律の専門家への相談を重ねて、肖像権、著作権の問題をクリアした。「幅広い世代を顧客に持つ百貨店として、安心・安全で、誰も傷付けることなく、3世代のお客さまに好感を持って受け入れられるよう配慮している」と石井マネジャーは話す。

 ファッションに限らず、食などライフスタイル全般の商品に対応し、ワンストップで一気通貫のサービスを提供している「ISETAN STUDIO」で、AIモデル撮影の展開をどのくらい広げていくか。石井マネジャーは「数値目標は明かせないが、ゆっくり拡大していくというより、テンポよく成長させていきたい」と、その仕組みづくりを加速させている。

キッチンスタジオ

 百貨店を中心とした小売分野に限らず、三越伊勢丹グループの広告・メディア領域での展開のほか、展示会への出展で交流する企業へのお試しサービスの提供、ランディングページを活用して認知度を高める施策など、グループ内外に働きかけてAIモデルを起用するメリットを伝え、世の中に広めていく意向だ。今後どれほど浸透していくか注目される。