ダイエー(東京都/西峠泰男社長)は「あらゆるプロセスにおけるデジタル化」を掲げ、多様な観点からデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進してきた。施策に共通するのは「店舗や地域の困り事を解決する」姿勢だ。イオングループの統合アプリ「iAEON(アイイオン)」の導入や、電子棚札とクーポンの連動などを進め、2022年には経済産業省から「DX認定事業者」に選定されている。
電子棚札とクーポンを連動
ダイエーがDX推進に取り組み始めたのは2018年のこと。当初は「デジタル戦略プロジェクト」から開始し、その後「ICT戦略本部」という名称の部署を設けて、23年3月に「リテールビジネス改革本部」へと改称した。同本部内にはストアオペレーション、マーケティング、ノンストア事業、ICT企画の4つの部署がある。全体では約70人が在籍し、小売全般にかかわるビジネスモデルの変革を担う(24年2月時点)。
リテールビジネス改革本部長を務める伊藤秀樹氏は、同社で長年営業企画や業態開発の業務に従事してきた。「新たな施策を取り入れる際には、『店舗や地域の困り事の解決をできるかどうか』を念頭に置いている。デジタルが一人歩きする、すなわちデジタル化自体が目的にななることを避けたい」と語る。
ダイエーのDX戦略の方向性は、大きく「販売促進・顧客接点の強化」「店舗デジタル化、働き方改革の推進」「新規チャネルの拡大」の3つに分かれる。なかでも近年注力してきたのが「店舗のデジタル化、働き方改革」の推進だ。
代表的な施策として、店舗のオペレーションの改善をねらい、21年からは電子棚札を取り入れており、ほぼ全店で導入が完了している。
電子棚札の導入によって一般的に期待されるのは、棚札の誤表記を防げる、POPの取り換えの手間が省けるといった効果だ。だが人手不足が加速するなかで、ダイエーではその効果をさらに広げる試みにも着手している。
たとえば電子棚札に裏画面を表示し、その場で最新入荷日や売価変更日などが確認できるようにしている。また、ネットスーパーなどのピッキング時に商品を探す手間を省くため、内蔵されたLEDライトを点灯させる仕組みも活用している。
さらに、一定期間で売上が基準以下の商品は、販売データと連携し液晶部分に表示を出す。それによって、従業員はわざわざ店舗バックヤードの管理画面を確認しなくとも、それら商品の存在を把握できる。
「電子棚札によって商品に関する情報がわかれば、店舗巡回のときにも本部と従業員の間で会話が生まれる。それによって、商品の売上を伸ばすという意識を共有できる」と伊藤氏は話す。
レジの構成を見直し、店舗ごとの最適解を模索
「販売促進・顧客接点の強化」の一環としては、導入するレジ形態の最適化を進めている。
従来の店舗では、対面レジやセミセルフレジの割合が高めだった。そうしたなか、23年4月にオープンした「イオンフードスタイル西新宿店」(東京都新宿区)では、タイムパフォーマンスを求められる店舗特性からセミセルフレジ2台に対してキャッシュレスフルセルフレジを20台設置し、比重を改めた。
「単に人時効率性が上がるからではなく、店ごとに最も適した構成を見つけたい」と伊藤氏は話す。
23年10月に開店した「イオンフードスタイル横浜西口店」(神奈川県横浜市)では、「CATCH&GO」という、レジを設置しない新たな店舗形態を開発した。同店では天井に設置した店舗カメラと、商品棚の重量センサーによってお客が手に取った商品を認識し、退店時に自動決済まで行える仕組みを実現している。
利用に当たってはスマートフォン専用アプリをダウンロードし、クレジットカードまたはPayPayと連携させる必要があるが、登録者は半数程度が複数回リピート利用をしている。
商圏特性やスペースおよびコストを踏まえるとすべての店舗での「CATCH&GO」の導入は難しいが、今後はオフィスや工場、学校内などマイクロマーケット向けの出店も視野に入れている。一方、小型の既存店についても、顧客の反応などをもとに、導入の検討を継続するという。
「iAEON」導入でロイヤルティ高める
同じく「顧客接点の強化」という観点から、22年9月にはイオングループの統合アプリ「iAEON(アイイオン)」を導入した。ダイエー公式アプリは24年2月末をもって終了する。
アプリの切り替えに当たり、当初顧客のうち一定数を占めるシニア世代の離脱を心配する声もあった。それでも導入に踏み切れたのは、数年前にプラスチックのポイントカードを廃止し、ダイエー公式アプリを導入した経験があったためだ。
廃止した当時、ポイントプログラムを引き続き使いたいと、わざわざスマートフォンに切り替えたという声がシニアの顧客から多く寄せられたのだ。「お得な要素をしっかり提供すれば、サービスが変わってもお客さまは当社を利用し続けてくださる」と、iAEONの導入背景を伊藤氏は振り返る。
導入から1年半が経過し、ダイエーをお気に入り登録している会員数は約100万人を超え、イオングループ内で最も多い数となっている。また、アプリ利用者は非利用者より単価が500円程度高く、ロイヤルティが高まる効果が出ている。
ここまで利用促進できた大きな要因は独自のポイント還元プログラムにある。iAEONでは、必要なダウンロード数やお気に入り登録件数を先に定め、達成に向けた施策を検討。月間の合計買上金額に応じてポイントを付与するプログラムをつくった。
プログラムは全5段階に分かれており、2万円以上で1.5%、3万円以上は1.6%……と上がっていき、最高段階は10万円以上で10%のポイントが付与される。最大10%という還元率の高さもあってか、広告を打たずとも、利用者数は自然と伸びていったという。
発注予測データを活用し仕入れの最適化へ
ダイエーで今後、DX推進においてとくに力を入れる予定なのが「データ活用と売場での情報発信」だ。とくにデータ活用は「購買データ以外で使えていないものを生かしていきたい」と伊藤氏は話す。
その1つが発注データだ。AIによる在庫の予測技術が進んだことで、商品の発注数は前もって予測が立てられるようになった。その予測データをサプライチェーンの上流に当たるメーカーや製造子会社に前もって共有することで、必要以上の仕入れを防ぎ、サプライチェーン全体で食品ロスの削減につなげたいと考えている。すでに導入準備を行っている段階だ。
売場での情報提供も、時代に合わせて変化させる考えだ。これまではSNSなどで発信する動画を外注していたが、より売場の実態を知る人間が情報発信を行うべく、自社社員2人で動画制作を行うかたちへと切り替えた。
今後は店頭へのデジタルサイネージの導入も進め、自分たちで制作した動画だけでなく、メーカーの商品の宣伝を流すことも検討している。「かつては、テレビCM、新聞チラシ、店頭ポップがダイエーの広告手段の常道だった。
今後はiAEON、サイネージ、電子棚札に置き換え、それぞれの顧客が必要としている情報を提供できるように変えていきたい」(伊藤氏)。売場、商品購入、販促に至るまで、ダイエーが掲げる「あらゆるプロセスにおけるデジタル化」は、着実に駒を進めている。