新配送センター立ち上げで、物流体制・配送能力を大幅増強
西友(東京都/ミッチェル・スレープCEO代行)と楽天(東京都/三木谷浩史会長兼社長)は2018年10月、新ネットスーパーサービス「楽天西友ネットスーパー」をグランドオープンした。収益化に苦しむネットスーパー事業者が多いなか、リアル小売とネット専業による“異種混合”のタッグはどのように事業を舵取りしていくのか。担当者に聞いた。
楽天と西友の異種混合タックにより新規登録者数は開始前の1.4倍に増加
楽天と西友は、共同運営する「楽天西友ネットスーパー」で、新たなネットスーパーのビジネスモデル構築に取り組んでいる。西友が従来から取り組む低価格戦略や実店舗で培った生鮮3品の販売ノウハウと、楽天がECサイトで蓄積した1億超に上る会員基盤やデータなどを融合させることで、ネットスーパーの新たな収益モデルを築く。
最近は配送料や人件費といったコスト増が顕著で、現在展開しているネットスーパーサービスの多くは利益面で苦戦している。西友と楽天は、実店舗主体の小売企業とネット専業の”異種混合”の協業で勝ち残りを図る構えだ。
「楽天西友ネットスーパー」がグランドオープンしたのは2018年10月25日のこと。西友の「SEIYUドットコム」、楽天の「楽天マート」の2社のネットスーパーサービスを統合した新サービスを発足させた格好だ。運営体制としては、実際の事業運営を担当する楽天西友ネットスーパー(東京都/竹田珠恵社長)、マーケティング機能を担う楽天西友ネットスーパーマーケティング(同/小森紀昭社長)の西友・楽天による合弁会社2社を設立している。
サービス開始後のユーザー数の伸びは順調で、楽天西友ネットスーパーマーケティングのサービス開発担当取締役の野村佳史氏によると、新規登録者数はオープン前に比べて1.4倍ほどで推移しているという。新規登録者数の増加は、1億超の楽天会員にネットスーパーの認知が進んだことが大きな要因だと野村氏は分析する。逆に、旧西友ネットスーパーの会員が楽天の会員になるケースもあるなど、早くも協業効果が現出している。
「楽天西友ネットスーパー」に衣替えして以降、大きく変わった点は物流体制だ。西友は現在、126店のリアル店舗を拠点にネットスーパーサービスを展開しているが、これに加えるかたちで、千葉県柏市に「ネットスーパー専用配送センター」を立ち上げた。
ネットスーパーの課題となる出荷の問題を改善。物流体制を強化
ネットスーパー事業の拡大においては、いかに効率的な物流体制を築いていけるかがカギを握る。
一般的なネットスーパーでは、顧客が注文しようと思っても、「当日の配送枠が一杯で、最速でも商品が届くのは翌日や翌々日」という状況がよくみられ、販売機会の損失を起こしているケース、およびそのためにアクティブ会員が伸び悩むケースが少なくない。新物流体制の立ち上げのねらいは、こうした課題を解消することにある。
柏市に立ち上げた専用配送センターは冷蔵、常温などの温度帯別に、効率よくピッキングできるレイアウトとなっており、最終的に顧客に渡すかたちで商品をピッキングする。そうしてピックアップされた商品は、センターから都内に複数設置された「配送拠点」に届けられる。そして、この配送拠点からラストワンマイルを担う。
専用センターを立ち上げたことで、出荷能力が増強され、「まだ完全ではないが、首都圏では(当日の)配送枠が埋まってしまっているという状況は解消された」(野村氏)という。
さらなる利便性の向上も見据える。顧客側からみれば、指定した配送枠の2時間は自宅で待機しなければならず、その間は行動が制約される。同サービスが今後めざす在り方について、野村氏は「現在の2時間の配送枠のうち、たとえば、『枠の前半30分で届くか』『それとも1時間後に届くのか』というようなきめ細かな情報を注文客に通知できるようにしたい」と話す。
このほか、「注文先の玄関などに留め置きする仕組みを構築していきたい」(野村氏)としており、さらなる顧客満足度向上をめざす。
今後の展開について、野村氏は「需要に応じて新たな専用センターを設置し、より多くの注文を受けられる体制を構築する。その際、専用センターは自動化も検討していく」とも話す。物流体制の拡充にあたっては、楽天の物流網の活用も選択肢とし、検討していく意向だ。
ただ、柏市の専用センターを含めたセンター設置については、「店舗からの出荷をなくすという前提ではない」と野村氏は述べる。「今後もあくまでも店舗と専用センターの併用を考えていく。(センター配送か店舗配送かを)エリアで分けるか、それとも店舗は短時間での配送のみを行うかなど、さまざまな可能性を検討していく」(野村氏)。
取り扱い品目数2万点。ネットスーパーの利用者と相性がよいミールキットが好調!楽天人気商品も順次導入
楽天西友ネットスーパーの取り扱い品目数は最大2万点と、従来から変わっていない。ただ、アイテムの中身やネットスーパーユーザーの「楽天市場」の活用方法は、両社の協業を通じて変わってきている。
その一例が、流行の兆しを見せているミールキットだ。現在は「国産豚肉と野菜たっぷり八宝菜」(2人前、税抜き780円)のような、楽天・西友による共同開発商品を数種類展開しており、日によっては品切れが起こるほど売れ行きは好調だという。
また、妊娠・出産・育児に関する情報を提供する楽天の顧客プログラム「ママ割」の参加メンバーがプロデュースしたミールキットなども販売する。「ミールキットは『時短』『手づくりできる』といった商品特性から、ネットスーパーの利用者と相性がよい」(野村氏)とし、今度もアイテムを拡充する方針だ。
このほか、楽天のグループ会社が手がける有機野菜やギフト商品、有名店のスイーツなど、「楽天で人気のある商品」を順次導入していくとしている。
楽天スーパーポイントでも購入可能。楽天の会員基盤を活用し潜在顧客にアプローチ
従来の西友のネットスーパー会員にとって、新サービスのスタートによって得られるメリットは、なんといっても「貯まった『楽天スーパーポイント』をネットスーパーで利用できること」と野村氏は指摘する。「ポイント3倍」といった大胆なポイント付与キャンペーンを展開する楽天のプログラムがネットスーパーにも適用されることで、相乗的にポイントが貯められるようになる。
従前の西友ネットスーパーには、かねてより「ポイントを還元してほしい」という声が強く寄せられていたという。楽天との提携でそうしたニーズにも対応できるようになったことは、他社に対し強力な差別化策となる。
楽天のポイントプログラムは還元率が高いことからユーザーの評価も高く、顧客満足度向上にも期待がかかる。「今後はネットスーパーの潜在顧客となる楽天会員にアプローチしていきたい」(野村氏)。
さて、野村氏が今後の課題に挙げるのは、楽天のネット上の膨大なデータをいかに活用するかという点だ。「ネット上のどこでどういった商品を購入しているか」という行動分析は、商品政策やマーケティングの精度を上げるうえで大きく役立つのは間違いない。
新サービスは利益面で苦戦するネットスーパーの新たなモデルとなるか。その成否は、もう少し静観してみる必要がありそうだ。