ホームセンター業界大手DCMホールディングス(東京都/石黒靖規社長)の事業会社であるDCM(同)は11月8日、恵比寿ガーデンプレイス内の商業施設「センタープラザ」1階に新業態「DCM DIY place」をオープンした。DCMとしては東京都心エリアへの出店は初で、同店を「体験に特化した都市型新業態店舗」と位置づける。DCMのこの新たな取り組みは、目下の売上よりも都心居住者にDIY(Do It Yourself)文化を浸透させることに第一の目的があるという。
コアターゲットは20~40代女性
全国37の都道府県で計670店舗を出店するDCMは、「恵比寿」駅から徒歩約5分の複合施設「恵比寿ガーデンプレイス」内、センタープラザ1階に「DCM DIY place」(床面積359.2坪)を出店した。
従来、ホームセンターは、周辺に戸建て住宅の多く地価の安い郊外に出店するのが基本だ。なぜ今回、東京都心の恵比寿に出店したのだろうか?
DCM新規事業開発部長の清家茂氏は「2年ほど前から都心部にDIY文化を広めるための店舗を出したいと考えていた。住宅が密接している都心部では、自宅で大きな音を出しづらいといった難点がある。そうした都心部ならではの生活の不自由をDIYで解消できることを訴求していきたい」と説明する。
「DCM DIY place」という屋号、「体験に特化した都市型新業態店舗」という業態コンセプトが示す通り、ホームセンターではなく、文字通り、DIYを体験する場としてこの恵比寿店を位置付ける。それに合わせ、既存ホームセンターは男性、しかも中高年が中心だが、DCM DIY place恵比寿店では、20~40代の女性をコアターゲットに設定する。
店内は、キッチンや床、トイレといった住空間を、DIYにより快適で自分らしい空間に変える提案をトータルで行うのが特徴だ。
具体的に店内を見ていきたい。
DCMがターゲットとする東京23区に居住する女性300人に住まいの悩みに関してアンケートをとったところ、最も多い悩みはキッチンの収納スペースの少なさだったという。
そこで「DCM DIY place」では、キッチンやバス、トイレに生まれるデッドスペースの有効活用術を展示するブースを設けた。収納空間の拡大をはじめとした、DIYによる生活空間の快適化をお客に提案する。
店内にはDIYに精通した若手社員を積極登用し、お客の悩みに対応する相談専門スタッフとして「DCMコンシェルジュ」を初起用した。スタッフ全員でお客一人ひとりに寄り添ったDIYノウハウを提供するという。
アンケートで次に多かったのは、水回りの汚れに関する悩みだ。さまざまな汚れに対応する強力な洗剤などを陳列するコーナーを設けることで、そうした悩みの解決を提案する。ほかにも、留め具やスマホスタンドなどアイデア次第でいかようにも使える万能ゴムタイ「くねくねしタイ∞」(税込195~602円)や、重ねた段ボールなどを荷崩れしないようにまとめられる「束ねるラップ」(税込327円)といったDCMのオリジナルブランド商品を並べていて、「あると生活が豊かになる」商品をチョイスしている。
DIYに対する心理的ハードルを下げる
「DCM DIY place」はターゲットを20~40代女性に設定していることから、持ち家ではなく賃貸物件に住む客層を考慮し、賃貸物件でもDIYを可能にする商品を揃えているのも特徴の1つだ。
たとえば、置いたり貼ったりするだけで設置できる床材だ。置くタイプは床材同士をはめこむことによってつながり、重みがあるためずれにくく設計されている。このように、賃貸だと退去の際に必要となる原状回復をしやすいように工夫をこらした商品が並ぶ。
小さい子どもがいる家庭では、集合住宅に住んでいると生活騒音で近隣に迷惑をかけていないか心配になる方もいるだろう。その対策として、簡単に設置ができて防音効果のある床材も揃えている。壁に突っ張り棒と吸音材を設置すれば、楽器演奏などを目的とした本格的な防音室もDIYでつくれる。
DIYは心理的なハードルが高いというお客に対しては、実際にDIYを体験できるスペースを設けている。同スペースでは床材や壁紙の張り替え、漆喰塗装、ペンキ塗装などさまざまな体験ができ、スタッフがコツやアドバイスを教えてくれる。
とはいえ、体験スペースで「DIYをやってみたい」と思っても、自宅では大きな音を出せないし独特な匂いが発生するからできない方もいると清家氏は説明する。そこで設置したのが、「DIY Work Studio」だ。同コーナーでは工具や塗料を無料で貸し出しており、集中してDIY作業に没頭できる空間を提供する。税込み1000円以上のお買い上げで当日最大4時間の使用が無料だ。
DIY文化の浸透が最大の目的
レジ横にはキッズスペースを設け、卵状に型どった木をたくさん入れたボールプールを設置した。木のぬくもりを感じてもらうことで、子どものうちからDIYを身近に感じてもらおうとする計らいだ。
「DCM DIY place」は、以上の取り組みによって都心居住者に向けてDIYの普及を図る。同店の今後の展開については未定で、お客の意見を聞き反応を見極めながら考えていくという。その反応次第では、既存店への波及も検討するとのことだ。
同店は売上目標を立てておらず、入場者数をKPI(重要業績評価指標)に設定している。清家氏は「売ることに注力するよりも、まずはDIY文化の浸透を目的にしたい」と述べる。