ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス2017 開催レポート
進化する流通・小売業のデータ分析経営
リアルタイム経営を実現するデータ分析・活用の最前線

2017/10/30 17:49

【事例講演】

「スーパーマーケット実店舗ならではのID-POSデータ分析・活用」

「商品」・「顧客」・「店舗」の基軸からのデータ分析アプローチの検証と成果


コープデリ生活協同組合連合会
店舗営業部 マーケティングシステム企画 次長
斉藤 繁 氏

 

ID-POSで客数を上げるという発想の転換

コープデリ生活協同組合連合会
店舗営業部 マーケティングシステム企画
次長
斉藤 繁 氏
 ID-POSを導入することで顧客のクラスタ分析やDNA分析などができるといわれ、マーケティング効果が期待されている。しかし実際にうまく活用しているスーパーマーケットはほとんどないと考えている。経営層は「大金をかけてID-POSを導入するのだから、すぐに効果があるだろう」と期待するが、POSデータも十分に活用していないスーパーにそんな“ご利益”はやってこない。5000万円から1億円という大きな投資を回収できるかというと、システムベンダーの汎用システムではオーバースペックになりがちで、採算性は期待できない。

 

 また個人の属性がわかったところでお客さまごとに売場を変えるわけにはいかない。だいいち、クラスタ分析したところでスーパーはマス化によるシステム産業であり、それを放棄することはできない。同じクラスタの顧客にクーポンを配るくらいなら、セールを打ったほうがより商品は売れる。リピート顧客だろうが一見さんであろうが売上は同じだ。「優良顧客が育つ」と説明されるが、実体験から言えば優良顧客は育たず、ひたすら右肩下がりで推移することがわかっている。少なくともデータはそう語っている。

 

 一般論ではあるが、組織面でも商品部はベンダー依存が強く、ベンダーの意向を反映しがちだし科学的ではない業界常識にとらわれているケースが往々にして存在する。現状を考えれば、ID-POSの本来の目的をはき違えているという場合が非常に多いと感じている。

 

 そこでわれわれは大胆に切り口を変えてみた。つまりクラスタ分析やDNA分析で客単価を引き上げるために単品を売るのではなく、とにかく客数を上げていくことに注力した。

 

 端的な例では、今買ったばかりの商品のクーポンをレジで発行する仕組みをつくった。店舗だけで毎週15万枚と大量に配布している。つまり今買った商品は、お気に入りなので一定期間後にはまた購入する。これで来店回数が確実に増えるというわけだ。結果的にクーポン利用顧客の来店が1週あたり0.3回増えた。しかも客単価は平均より2割程度高いのだ。

 

 従来は、クーポンを配って対象単品の販売数を数え効果を検証していた。しかしID-POSならば客数動向を追跡できる。スーパーの場合には顧客の絞り込みなど考えずに、まずはドカンと売って集客することに注力すべきであり、この価値観に変われなければID-POS導入は意味を持たない。

 

年間数億円レベルの利益改善効果を見込む

 これを踏まえて「商品」「顧客」「店舗」の3基軸でそれぞれ施策化する。商品視点でのID-POS政策なら、同一顧客がA・B2つの商品を「同時併買」することはないが「期間併買」ならばAとBは代替可能商品であり同じカテゴリと考えられる。システム的に品揃えを改善することができる。顧客視点での施策では、カード保有で利用継続ならプリペイドカード化やインセンティブを強化して囲い込み、もし離反しそうな兆候があれば未利用化防止クーポンを打つ。長期未利用者には再利用促進クーポンを配布するなどの施策を行う。店舗視点では競合の台頭で不振な店舗は、競合との力比べではなく適切な対策のみを徹底する。

 

 コープデリ店舗では今年3月から全店でプリペイドカードを導入した。従来のカードから3万枚程度は切替があるとみていたが、実際には22万枚以上になっている。インセンティブについては3カ月の買い上げが5万円以上または来店26回以上のロイヤル顧客を対象に5%優待割引を実施しており1日限り5%割引でも利用率は65%ある。

 

 ID-POSのデータ分析から未利用化・利用減少化しそうな会員を予測できるようになった。その正解率は6割程度である。ただ長期未利用者への再利用促進クーポンについては、あまり効果がない。何もしなくても1%程度は再利用することがわかっているが、一度離反した顧客は簡単には戻らないので、離反する前に手を打つということだ。

 

 そのほかにも競合対策パッケージについても実験を行っている。棚割需要分析ツールについてはすでに実用化しており、対象のカテゴリは売上高が0.9~1.4%程度の向上につながったと考えている。

 

 ID-POS施策は、今後とも強化拡充していく方針。これらの施策を通じて年間数億円レベルでの利益改善があると考えている。最後に「数字はおもちゃではない。データに遊ばれてはいけない」というのが私なりの主張であり、商品部や運営部業務に寄り添えなければ何の役にも立たないと考えている。

 

顧客視点でのID-POS施策
店舗視点でのID-POS施策

 

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