小売業のデジタルトランスフォーメーション
進化する顧客起点のデータ分析・活用戦略の最前線
加速する流通業のデータ活用の成功事例
小売業の次世代モデルに向けて
~ID-POSとデジタルマーケティングの融合~
株式会社 サンキュードラッグ
代表取締役社長
平野 健二 氏
少子高齢化や将来的に人口減少が顕在化することで、小売りにとってもメーカーにとっても売上アップが非常に難しい状況がより深刻化することになる。ID-POSやデジタルマーケティングの活用をより効果的にするため、「誰が、誰に対して、どのタイミング」で情報を発信しているのかを明確にし、個別のマーケティングや情報配信することが必要になる。それによりローカルの店舗に顧客を誘導することが、市場縮小の中で個店の売上向上、地域シェアアップにつなげていくことが可能となり、メーカーにとっても潜在顧客発掘などで売上貢献するチャンス創出につながる。
ID-POSをどう活用するか
少子高齢化で確実にマーケットは縮小していく。サンキュードラッグが本拠地としている北九州市では人口が毎年0.3-0.4%減少し、また店舗のある下関市では毎年0.6-0.7%減少している。しかも高齢化でモノの消費は減退し続け、さらに高齢者はモビリティの低下で半径500Mより遠い店には行かない。そのためドラッグストアはパーソナルケア商品の育成やリピートによるブランド育成、買上率向上など自ら市場創造し店舗の売上向上につなげていかなければならない。
ID-POSを導入して10年ほどになる。まずフェーズIとしてお客様を知るということがあるが、顧客のデモグラフィーだけではしょせんスモールマスであり、使える範囲が限定されることは極めて初期の発見であった。そこでデータの質的定義が不可欠になる。アクションを起こすために何を知ればよいのかを探求する。しかも赤ちゃんから高齢者までを対象とした幅広い商品を扱っているドラッグストアの特長をどう生かすか。ID-POSのデータから未購買者を発掘し、どのようにカテゴリー新規の需要創造につなげていくかが重要になる。
フェーズⅡの段階としては商品の価値を定義することが必要。商品固有の潜在価値、バイヤーも知らない価値を発見定義し、それが顧客にとってのどのような価値を持つかの表現に変えなくてはならない。価値の属性~モノではなく便益を受ける人、それが「Right Person」=つまりターゲットとして正しい人に届けられているかを分析する。フェーズⅢとして、その人の心に刺さるメッセージを届けられているか、効果的に伝達できるメディアは何なのか、それが正しいタイミングで発信できているかを検証する。
閲覧履歴と位置情報は状況証拠
しかしデジタルマーケティングにはいくつかの課題がある。まず閲覧履歴等から「Right Person」と思われる方に情報を届けたとしても、その方が購買したのかどうかがわからない。閲覧履歴と位置情報は購買可能性の「状況証拠」に過ぎず、購買履歴とのリンクがあって「確証」となる。また「Right Timing」としてもSNSアクセスは「興味」「一過性」のタイミングであって、それが「購買」へ誘うタイミングである必要がある。そして結果として買ったのか、ということを検証するのが難しい。ということは次回購入へのアクションはさらに難しく、買ったのがどのような人かも検証できない。SNSへのアクセスは容易だが、それはタイムリーでなければならない。しかしデジタルメディアは選択的、個別的配信が可能とされながらマスメディアとして使用されているケースが多い、つまりテレビコマーシャルと同じというのが実情だろう。使う側がメディアの特性を生かしていないということになる。
「デジタルマーケティング」とは、お客様それぞれをデジタルにとらえるマーケティング。個別的アプローチのためにデジタルメディアの特性をどう生かすか。我々はID-POSによる購買履歴がありパーソナル・ヘルス・レコードも保有している。これらを選択的・個別的伝達を可能にする媒体と結びつけることで「真のデジタルマーケティング」が成立するわけだ。
「ドラポン!」の機能拡充を計画
ID-POSとデジタルマーケティングを組み合わせることで、様々な外部メディアへのバナー広告配信や郵便番号レベルでの広告配信が行える。ID-POSの購買履歴、閲覧履歴、位置情報から購買後のフォローや購買可能性の高いタイミングの特定も可能になる。また、店舗へのアクセスとして誰が配信するかも重要だ。メーカーから配信することが多いが、お客様はその商品がどこにあるかわからない。しかし小売が配信すれば、その商品がその店に存在している安心感があるから購買率が上がる。つまりデジタルメディアの配信は、地域のローカルチェーンが行うべきなのである。
顧客ID-POS による全国パネルデータの提供とマーケティング研究と実践活動を行っているSegment of One & Onlyの会員企業23社では、「ドラポン!」というサイトを運営している。メインサイトでは興味関心に関するアンケートの実施、潜在顧客の発見、サンプリング・クーポン配信などを行い今年度中にはフォローアップも実施する予定だ。さらにネット通販との連携も今後もありえるし、健康管理サイトとの連携も行う予定だ。
「ドラポン!」は各ドラッグストアの会員だけに配信するサイトだったが、ブラウザ配信することで広く地域の人に届くようになる。とくにローカルチェーンの集合体なので、出店エリアが明確になっており、店舗からの情報発信で商品の所在がわかる。
カテゴリー買上率向上は来店頻度の向上
カテゴリー買上率に注目したところ、その結果にがく然としたケースもある。年間1万円以上購入する人を抽出してみたところ、例えばシャンプーを1度でも購入した人は30数%しかいないという事実もそのひとつ。2度以上の購買はさらに低くなるだろう。そうなるとカテゴリー買上率をアップする施策が必要になる。カテゴリーの買上率を向上させるこということは、顧客軸から見れば買上カテゴリーが増えたということになる。買上カテゴリーが増えれば来店頻度も増える。来店が増えることでついで買いが増え、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)は二乗で増える。
カテゴリー買上率をアップするためにサブカテゴリ―、価格帯、顧客セグメント、新たな伝達手段、新発売・シーズン導入期それぞれの買上率を高める取り組みを進めている。分析してみると企業、店それぞれによって課題は違うが、同じアプローチをしてしまっている。汗腋パッドは制汗剤と併売されているケースが多い。しかし実際に同時購入されているのは洗剤。つまり洗濯の時に汗染みを気にしないために、汗腋パッドを購入するケースが多い。たびたび選択しなくて済むように購入しているわけだ。ID-POSのデータをよく見ればそうした事実を新たに発見することもできる。