IoT・AI時代のデジタルイノベーション
データから洞察と価値を生み出す小売業のアナリティクス経営
ビッグデータ活用を企業競争力向上につなげるために

2017/01/13 17:27
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マーケットイン時代のセルフ・サービスリソースをフロントに集中せよ!

FOUR-SEEDS 代表取締役社長 岡村 洋次氏

自動発注の効果は発注の手間の削減ではない
在庫を削減したことで人手をフロントに回せる

 

 オーバーストアの状況に加えECとの競合など流通小売にとって、新たなアイデアとITをフルに活用した店舗改革の重要さが増している。流通の競争の現場は売場だ。売場を活性化するために、バックルームでの仕事をいかに減らしフロントに人手をかけられるかがカギとなる。店舗作業時間の8割はバックルーム作業に割かれ、店頭での仕事は2割程度しかないといわれる。人手不足や人件費上昇の中でむやみに店舗人員を増やすことはできない。そこでITを活用してバックルーム作業を減らすことが第一歩となる。

大量生産から大量消費まで10年間のギャップ

岡村洋次氏
株式会社FOUR-SEEDS 代表取締役社長 
岡村 洋次 氏

 1960年以降の大量生産つまりマスプロダクション時代と70年以降の大量消費の時代には10年のズレがある。60年代の大量生産時代はお金がなくてモノが買えなかったということではなく、中間流通というボトルネックがあったからモノが売れずに、むしろ海外に商品が流れていた。GMSやSMが台頭し、「流通革命」と称してこのボトルネックの解消に乗り出し、購買利便性を高めたことで「大量販売」が可能となった。

 

 大量生産の時代が“プロダクトアウトの時代”ならば、大量販売が可能になり大量消費が始まった時代は“マーケットインの時代”が始まったということができるだろう。何でも買える時代になり、顕在化した需要が満たされれば、より良くなりたいという心理=ウオンツが肥大化する。同じ商品をリピートで飼うのではなく、より良い商品が欲しくなる。より専門性を求めるようになるわけだ。生活者が何に満足し何に不満を持っているか、小売がそれを解析し仮説立案することで、生活者に寄り添うようになった。つまり「流通革命」とは、単にボトルネックに穴を開けただけということもできる。

マーケットインの時代のセルフサービスは高コスト

 プロダクトアウトの時代、需要が顕在化していた時のセルフサービス売場は、ローコストオペレーションのためにサービスを“セーブ”することと考えられていた。例えばネクタイ1本しか持たない人が、季節に合った新しいネクタイを買おうとすると、そのひとは季節商品の売り場ではなくネクタイ売り場に向かうことが当たり前とされていた。つまり製品別の分類で、カテゴリーから単品に行きつく経路を作ることが時代に合っていたということだ。この方法では売り場が固定化され人手をかけなくても済んだ。販売管理費を低減できたわけだ。

 

 マーケットインの時代、需要が潜在化している時のセルフサービス売場は真逆となる。売場には人的資源が必要とされ、人件費がかかり販売管理費は上昇する。モノがあふれ何が欲しいかが漠然としている時は、「きっかけ」を作ることが大事になる。例えば産地も変わり、売価も安くなった白菜があれば、それを切って中身を見せて並べて置く。その白菜がトリガーになって夕食は鍋料理にしようと決め、必要な材料を買いまわる、という状況が出現する。色で気づいたり、季節感で気づいたり、低価格で気づくということもあるだろう。そうした仕掛けが買物を活気づかせることが重要だ。導線を作り、アイキャッチャーを作り、分類を変えたり接客対応を高めたりといった施策を講じることは、すなわち売場に人手をかけなければできない。かつてのセルフサービスがコスト削減ならば、オーバーストア状態の今、必要なセルフサービスは売上をどのように拡大するかということになる。

“新たな敵は顧客”という発想

 プロモーションも変化する。プロダクトアウトの時代はどこに買い物に行くかは、チラシに掲載されたNB商品の値下げなどが動機付けに有効だった。値入率を下げても、他に買物に行かなければ販売数量が増えて粗利を稼げるという図式だ。敵は競合店であり、そこに勝つためには価格競争が有効だった。


買い上げ点数をあげる

買い上げ1点単価を上げる

 しかしマーケットインの時代には価格訴求力はかつてほど威力を持たない。しかも競合店が増え、ECサイトとの競合など完全なオーバーストア時代に価格だけで勝負するのは、自分の首を絞めるようなものだ。だからこそ来店客の購買数を伸ばし、客単価を引き上げることが必要になる。もはや敵は競合店ではなく“新たな敵は顧客”ということだ。顧客とせめぎあうプロモーションの目的は店舗での滞留時間を長くし買い上げ点数を上げることと買い上げ単価を上げること。

 

 専業主婦の1回の買い物時間は15分といわれ、そのうち大部分は生鮮食品売場に費やされる。その15分を伸ばすために“マグネット”を用意しその効果で買い回る機会を作る。買い上げ単価の向上にはカテゴリーをどのように作るかが重要になる。売価がメインのコモディティアイテム、それよりもベターなベターアイテム、ベターアイテムに目を向かせるためにさらにグレードの高いプレミアムアイテムがある。それぞれのカテゴリーで、信頼性を確保するための品揃えに加えて、季節性やトレンド、バラエティなど需要との親和性の高い品揃えを作る必要があるだろう。

バックルームのスチール棚も撤去

 フロントにリソースを集中するために必要なことは、バックルームの作業を減らすことだ。すべき仕事はフロントにあり、バックルームにはほとんどない。自動発注もその手段の一つだ。

 

 自動発注を導入する前は、付帯作業が散布されてしかも長時間化していた。また効率が悪いため発注時間が来ているのに補充にかかっているという現象も起きていた。自動発注導入後は開店前に品出しが完了している、ミーティング時間も作れるようになった。ただこれは発注の手間が減ったからではなく、余計な在庫がなくなったから実現したこと。属人的な発注はどうしても過剰に発注してしまう。結果的に商品を戻したり保管したりといったバックルームでの作業が増える。人は多能工である。発注だけが仕事ではない、発注は専門で行うコンピューターに任せて、その分フロントに出て現場作業にあたるほうが余程効率的で売上アップにつながる。

 

 かつてイトーヨーカドーに在籍していた頃、自動発注を導入した。この時はセルワン・バイワン方式ではなく発注提案方式を採用したが、自動発注システムの方が正しいことがわかり徐々にシステムが行う発注に任せるようになった。まず9月に21店舗でテスト導入したが、3か月後には未導入の店舗よりも売上を伸ばすようになった。

 

 在庫についても基準在庫方式を採用し、バックルームには在庫を置かないようにスチール棚も撤去した。かつては品切れを起こさないために“安心在庫”と称して過剰に発注していたが、今は“最低陳列量”を基準として発注しているので、余計な商品はなくなりバックルームに商品があふれているということもない。

 

 社会環境の変化やオーバーストアの市場環境の中で、ITの活用は非常に重要な位置を占めている。IT導入はコストという考えは根強いが、ITがなければフロントにリソースを集中し売上拡大を図るという施策も講じられないのが実情だ。

 

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