ダイヤモンド リテール・カンファレンス2016
小売業のデジタルマーケティング最前線
カスタマーエクスペリエンス向上を実現するデジタル化、オムニチャネル戦略

2016/06/21 17:20

[講演]
アドビ システムズ株式会社 グローバルサービス統括本部 ソリューションコンサルティング本部 マーケットディベロップメントエンジニア
熊村 剛輔 氏

 

“デジタル”の最新動向に見る、明日から踏み出すべき次の一歩

変化の本質をつかむことが最重要課題

 

デジタルマーケティングの目的は、変化の本質をつかむこと。どんなビジネスでも顧客の環境における変化でビジネスも変わらなければならないし、そのためには変化の本質をつかんで理解することが成功の秘訣となる。モバイルの波に流されて、闇雲にサイトを作り失敗しているケースは少なくない。そもそもモバイルシフトする中で、一貫性のあるマーケティングに注意を払っているかが問題になる。アドビ システムズの熊村 剛輔氏は「一貫性のあるプラットフォームが重要」と話している。

 

情報獲得の「多様化」と「細分化」が進む

 

アドビ システムズ株式会社
グローバルサービス統括本部 ソリューション コンサルティング本部 マーケット ディベロップメント エンジニア
熊村 剛輔 氏

 その変化の本質を表すキーワードは「多様化」と「細分化」だ。多様化には顧客接点の多様化、顧客のライフスタイルやニーズの多様化、コンテンツや情報の多様化、表現手法や顧客体験の多様化などが挙げられる。そして細分化としてとらえられるのは情報接触時間の細分化、マーケティングセグメントの細分化、コンテンツや情報の細分化がある。

 スマホが普及しどこにいても情報に接触できるようになった。それが電車で一駅移動する2分間に情報に接触していても、駅に着いて降りるときにスマホをポケットにしまった後は、また別の手段で情報に接触している可能性が高い。それだけ情報への接点は増え、また情報に接触している時間が短くなっているというわけだ。

 かつては情報源がテレビや新聞、雑誌など顧客の情報取得手段が限定的であり、ライフスタイルや趣味・嗜好などが画一化しやすい状況にあった。つまり「共通解」を作ることができた。今は多様なメディア・ツールが存在し、情報接触手段が増える一方。それゆえに「共通解」が無いコミュニケーションが必要になっている。言ってしまえば、そもそも「共通解」など存在していなかったことが可視化されてしまった、という状況だ。

 

78%の消費者がモバイルでの購買に不満を感じている

 

 「共通解」がなくなった結果何が起きているか。全米広告主協会がまとめた2015年のマーケティング予算配分の状況を見ると、広告が25%程度なのに対してブランドアクティベーションつまり「個」をターゲットにしたマーケティングには60%程度の予算を割り当て、しかもさらにウェートを高めていくと予測している。スマホなどモバイルツールを対象にしたマーケティングの重要性を認識している。

 ところが米調査会社の2016年予測では、米国の小売業の全体売上に占めるモバイル経由の売上の割合は、わずか1.3%である。パソコンを含めても10%程度。たった1.3%のために…と思うかも知れないが、モバイルが影響した売上の割合は32.3%になるとされている。つまり売上の3分の1はモバイルが関与しているわけだ。同時にデジタル広告費に占めるモバイル広告費の割合は66.9%とされ、すでに3分の2はモバイル広告が占めるようになるという。

 一般的なモバイルの使われ方をみると、購入前に商品を確認72%、商品価格の確認70%、店舗の場所検索60%、モバイルクーポン使用55%などとなっており、これらの数値に驚くべき要素は見当たらない。驚くことは、これだけモバイル広告のウェートが高まり、消費者がモバイルツールを活用するのが当たり前になっていながら、「78%の消費者はモバイルでの購入に不満を感じている」という結果だ。これがモバイル経由の売上が1.3%にとどまる理由だ。これは企業がパソコンサイトと同じようにスマホを注文端末と考えて、ECサイトを作ってしまうことにも原因がある。

 

顧客理解には小さな分析と最適化を常時展開

 

 ここでオフラインとオンラインを比較してみると、オフラインは広さ=展開規模と数=部数/視聴率がカギになるが、購買プロセスが進めば影響度は弱まる。これに対してオンラインは多種多様なツールが存在し多くの情報が氾濫していることで影響度は高まる傾向にある。そうした違いを見極めた上で、必要なことは「360度の顧客理解」とよく言われるが、そこが難しいとも言えるだろう。

 アドビ システムズで経験したベストプラクティスの多くが、多種多様で膨大なデータを集めて分析し、さらに「小さな分析と最適化を常時展開」することで顧客を把握、パーソナライズから顧客体験につなげるというカスタマージャーニーのサイクルを構築している。そこで必要になることは「顧客接点をまたいだ一貫したブランディングとマーケティングアプローチ」になる。つまりPaid Media、Earned Media、Owned Mediaといった顧客接点を横断的にカバーしPDCAサイクルを素早く回す仕組みが重要になる。これは「集客」「接客」「送客」のいずれの段階でも必要なこと。そのためにオンラインとオフラインをつなぐコミュニケーション基盤の構築とブランディングが不可欠になる。

 顧客の状況は変化する。その意味で「セグメントは一度作ったら終わり」ではない。顧客にアプローチする段階で顧客がサラリーマンであっても、施策を進める段階では定年退職していた、ということもあり得る。そこでセグメントのメンテナンスのために「小さな分析」が欠かせないわけだ。
 

 

データ分析を“作業”で終わらせない分析基盤が不可欠

 

 デジタルマーケティングで結果を出せる企業とそうでない企業の違いは、データ収集から分析、顧客把握、パーソナライズ、顧客体験というプロセスを速く回すことができるかどうか。データ分析を高速化するために、どれだけ多くの顧客接点から一貫性を伴う情報を得られるか、それだけ多くの情報を素早く分析できるか、共通化された物差しを持っているかなどが問われる。またアウトプットの高速化では、ビジネスの要件に合わせて細分化された多数のセグメントに対するコンテンツを素早く制作できるか、顧客にとってベストなタイミングで的確なコンテンツを提供できるか、その顧客接点に対しても一貫性のある顧客体験を提供できるかが重要になってくる。

 よく言われるのが「データ分析に時間がかかる」ということ。これは結果的にデータ分析が“作業”になってしまい、その後にすべきことを理解していないからだ。しっかりとしたデータ分析基盤を備え作業時間を短縮することと、分析の後に何をすべきかが理解できていれば、施策立案から実行まで本来の分析をスピーディーに実施することが可能になる。

 アドビシステムズは様々な領域で省力化を図るためのクラウドソリューションを提供している。マーケティング領域では「Adobe Analytics」「Adobe Experience Manager」をはじめとした8つのツールを提供している。さらにベストプラクティスで培ったノウハウを備えており、数多くの顧客接点に対してデータで管理された顧客体験を実現するための的確なソリューションを提供できる。

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