ダイヤモンド リテール・カンファレンス2016
小売業のデジタルマーケティング最前線
カスタマーエクスペリエンス向上を実現するデジタル化、オムニチャネル戦略
株式会社 キタムラ 執行役員 経営企画室 オムニチャネル(人間力EC)推進担当 逸見 光次郎 氏
「オムニチャネルで顧客満足を高める、ECの役割が変わる」
~カメラのキタムラ EC×店舗の成長事例~
キタムラはカメラ・スマホ・写真プリント販売チェーン「カメラのキタムラ」を約900店舗、写真スタジオの「スタジオマリオ」約400店舗、iPhone修理正規代理店「Apple正規サービスプロバイダ」57店舗などを展開するカメラと写真の専門店チェーン。全国に広がる店舗網を生かして、カメラ販売では量販店を脅かす存在であり、ネット販売額ではトップ10に入る規模だ。キタムラのオムニチャネルは、専門店の強みを最大限に生かすことを目指している。カメラに関する知識を備えた店舗スタッフだけでなく、コールセンターではスキルの高い店長経験者や店舗経験者が対応し店舗売上にも貢献している。そうした経験値の高い人材をフルに活用したオムニチャネルをキタムラでは「人間力EC」と呼んでいる。
執行役員 経営企画室
オムニチャネル(人間力EC)推進担当
逸見 光次郎 氏
私は大学を卒業して三省堂書店に入った。そこで実践したのは「お客さんを手ぶらで帰さない」ということ。例えば三省堂で売り切れていたなら、他店の平台においてあることを教えたり、絶版本のことを聞かれれば古本屋を紹介したりということもやった。三省堂の売上にはならないが、お客様はそうした情報を教えてもらい、目的の本を買えることで満足できる。中には他店で購入して、わざわざ三省堂に戻ってお礼を言ってくださるお客様もいた。つまりお客様満足が向上すれば、そのお客様は離れないということだ。これはリアル店舗でもECでも同様だと考えている。
オムニチャネル化では「顧客接点をたくさん作る」ということを実行してきた。スマホが浸透したことで、誰もがどこにいても必要な情報を得られるようになった。ここで重要なのは消費者がスマホに接触している時間の長さ。情報を見たり、SNSに書き込んだり、電話をかけたりという時間の中でどう小売側の情報提供に触れるチャンスがあるか、またそのチャンスを生かせるかということが重要になる。そのために必要なのは、スマホを入口として、連携した商品DB・購買DB・顧客DBにつながる仕組みだ。単に接点を作れば済むというのではなく、お客様の満足を向上するためにECを効果的に活用するには、あらゆる情報を連携させて適切な情報を提供しなければならない。
小売業のECの初期は、ネットで宣伝し、ついでに販売もしようというスタンス。店頭在庫を宅配便で出荷するという形態もあった。さらにネットモールに出店しバーチャル店舗で売上伸長を図るようになる。その頃にはEC倉庫を設けWMS(倉庫管理システム)を備えて効率化も狙った。
現在の主流は、ネットで集客しネット注文からリアル店舗の売上拡大につなげるという使い方。ネット店舗でEC倉庫からお客様に出荷するだけでなく、EC倉庫からリアル店舗での受け取りも可能になった。そしてこれから求められてくるのが、店舗もネットも活用することで会社全体として売上を伸ばすという方策だ。ECの売上はEC部門で計上する、店舗の売上は店舗でというのではECと店舗が食い合うという発想につながる。ECはオムニチャネルによって企業のインフラとなり、ITとともに事業から基盤へと進化する。つまり会社全体の業績向上にはECと店舗を分けるのではなく、相乗効果を生かしていくことが重要になってくるわけだ。
キタムラのEC関与売上は430億円。その中身を見るとネットからの注文が262億円。このうちネットモールで検索・注文が74億円。自社ポータルサイトでの検索・注文188億円のうち45億円が宅配を選択し、残る7割の143億円が店舗での受取を選択する。さらに店頭タブレットを使っての取寄せ注文が167億円となっている。ここで注目したのは店舗が関与する売上が311億円を占めていることだ。
これはカメラを買うときなど、製品を熟知した店舗スタッフに確かな情報や使い方を教えてもらいたいというお客様が多いということ。カメラを買うときなど、キタムラでは初期設定を無料で行っているし、例えばメモリーであったり液晶保護フィルムであったりという必要な周辺の製品もアドバイスして買ってもらっている。店舗では一通り揃って、すぐに撮影出来る状態でお渡しするというサービスを当たり前のようにやってきた結果と言えるだろう。
とくに店舗スタッフがタブレットを操作して注文する場合など、何を撮るのか、どなたが使い、どんなクラスのカメラが欲しいかなどをお客様に聞きながら、価格や機能比較などをアドバイスしながら商品を選ぶというプロセスが注文のカギになっている。これを経営層は「お客様は、キタムラの店員を写真好きの先輩や師匠のように思っている」という風に理解している。
つまりキタムラのオムニチャネルは直営専門店ならではのスキルを持ったスタッフが支える「人間力EC」というわけだ。
オムニチャネルはOne To Oneのコンテンツ・マーケティング。「企業が発信したいコンテンツ、つまり企業の専門性をお客様に合わせた形・手段で提供し、顧客自身が納得・満足した上で継続的な顧客になってもらうこと」である。だからキタムラはこれまでの写真やカメラの専門性を生かして、デジタル時代の写真の楽しみ方を、スマホを含めて提案し高めていくことを目指している。これは我々にとって営業行為そのものだとも言える。
これまでにも店舗がSEO(検索エンジン最適化)を意識してヒット率の高いタイトルをつけたブログで情報発信することや、商品情報などを掲載したメルマガを常連の集客向けに発信。店舗では通称“パタパタ”と呼ぶプリントアプリ紹介冊子を、プリントに来たお客様の待ち時間に店員が説明してネット会員化している。アプリからいつでも簡単にプリント注文できるようになり、その9割が店舗受取なので、お客様の利便性向上と店舗の作業効率向上につなげた。また、メーカーから実機を借りて、いち早くYouTubeに使い方動画をアップして集客することも行っている。
これからキタムラのECをどのように強化していくかが課題だ。ポイントは更なる仕組化と人間力ECの増強。まず専門性や接客力の強化を図るための人材教育を徹底すること。さらに新規商品・サービスを拡大しインフラに乗せていくこと。店舗システムへの投資やネット注文システムの刷新などがこれに相当するだろう。また、店舗とECをさらに効率よく活用して在庫回転率を最大化する物流網の構築、メーカーとのSCM強化による在庫の効率化と取寄せ注文の拡大と納期の明確化、全社に最適化されたマーケティングの実現とそのための専門組織の設置も必要になるだろう。
キタムラでは店舗とECを合わせたお客様1人あたりの通算売上高がオムニチャネルの成果指標と考えており、例えばイヤーアルバムの作成など写真を通じたライフ・タイム・バリュー(LTV)をお客様ごとに提案し売上につなげていく。商品をいくつ売ったかで売上が計算できるが、それはお客様がいくら買ったかの合計も同じ売上となる。キタムラではお客様単位で満足度の向上と売上アップを考えていく方針である。