ダイヤモンド リテール・カンファレンス2015
顧客ロイヤルティを創造するアナリティクス経営
進化する小売業のID-POS、顧客データ分析・活用戦略

2016/01/27 17:16

【講演】
マツモトキヨシホールディングス
経営企画部 次長兼オンラインビジネスユニット シニアユニットマネージャー 
松田 崇 氏

 

マツモトキヨシの顧客価値創造を目指すオムニチャネル&顧客データ活用戦略

ID-POS起点にモバイルとリアルの相互補完狙う

 

 出店競争が続くドラッグストア業界。しかし競争激化により、出店だけでなく退店も相次いでいるのが現実だ。もはや2次元的な面の競争は飽和状態にあると言えるだろう。その中で売上拡大のカギとなるのが、顧客インサイトの深堀りである。そのためにはIDPOSを起点として、ビッグデータの分析とそれをもとにした効果的な施策が必要だ。マツモトキヨシのケースでは、モバイルツールの活用で顧客ニーズを掘り起こし、リアル店舗との連携にも分析結果を生かすチャレンジが効果を産みつつある。

停滞する1店舗当たりの売上高
マツモトキヨシホールディングス
経営企画部 次長
兼 オンラインビジネスユニット
シニアユニットマネージャー
松田 崇 氏

 マツモトキヨシグループは2010年から2014年までの5年間で売上が約10%伸長した。しかし店舗当たりの売上は同じ5年間で小幅ではあるが縮小しており、これはマツモトキヨシの店舗に限ったことではなく、ドラッグストア業界全体を見ても店舗当たりの売上は5年間で3.4%低下している。さらに業界全体の動向を見ると、市場規模は2004年から10年後の2014年までに65.7%増となっている一方で、収益率を見ると市場の成長と反対に2004年の4.1%に対して2014年は3.9%に低下している。

 

 業界全体で出店競争が続いたため、オフラインでの陣取り合戦はすでに限界に近いと考えている。リアル店舗の出店が飽和状態にある中でマツモトキヨシでも多大な費用と時間をかけて出店して獲得できるシェアは限られている。その限られたシェアを獲得するため、出店にプラスしてモバイルで顧客獲得を進めてきたわけだ。

4つの顧客接点をシームレスに連携

 まず2012年7月にLINEの企業アカウントを取得、2年後の2014年8月に公式アプリの提供を開始した。そして2015年7月に「マツキヨ オムニチャネル」をリリースした。ちなみに公式アプリはスタートから15カ月で300万ダウンロードを実現している。これは機能を軽く始めようということで、ポイントとクーポンの配布、ゲームにとどめた。

 

 その結果、開始から4カ月でクーポン使用率でLINEを抜いている。LINEのフォロワーは現在1360万人超となり、公式アプリとの連携をどう図るかが課題になっている。

 

 オムニチャネルのリリースにあたって考えたことは、事業形態の違いなどオムニチャネルの形は様々でいい、ということだ。マツモトキヨシグループの場合、ヘルス&ビューティの領域でしか事業を行っていないので、考え方としては単純でコミュニケーションを幅広く、カスタマーインサイトを絞り込み我々なりに理解を深め、それをベースにコミュニケーションの幅を広げるという“砂時計”のイメージ。それを三位一体で回して行く。

 

 チャネル数は4つ。店舗の機能は体験、ECは利便性、アプリは接点、Webはショールーム。それらをシームレスに連携させていくことを考えている。そしてこれまでは事業会社別に独立していたECサイトやアプリ、ポイント、リアルとECで別になっていた顧客ID、コールセンターの4つの仕組みをひとつに統合した。

 

 統合することで、顧客にリアルタイムで在庫情報や売価情報、ユーザーアクションを見せるようにした。これにより3 か月後のページビューは順調に拡大し、ユニークユーザーも同様に増加が続いている。

 

オムニチャネルユーザーの月間購入額は約3倍

 男女別に店舗を利用するシングルチャネルユーザーに比べオムニチャネル利用者は、女性客の多いマツモトキヨシの場合は女性が20代から50代前半までの幅広い層でオムニチャネルが上回り、男性客は少ないとはいえやはり同じ年代でオムニチャネル利用が高くなっている。データを見るとシングルチャネルユーザーの月間利用回数、購入点数、合計金額をオムニチャネルユーザーは数倍上回っており、それほど大きな効果が顕著に表れている。

 

 店舗に行き買物をするとき、「欲しい商品が無かった」「いつも買っている商品が無かった」という経験は少なくない。店舗にある商品は大体1万SKUでしかも開店時間は限られている。それに対してウェブは24時間いつでも利用でき、アイテム数も5万SKUと多い。

 

 ID-POSを起点として、顧客の購買履歴、行動履歴、サービス利用の履歴、キャンペーンの申し込みなど顧客のアクションがオムニチャネルで把握できるようになった。

 

 とはいえ店舗は無策というわけではない。これから考えるべきは、店舗で収集したデータをどのように取り込んで行くかだ。その一環として、2015年9月末に千葉県松戸市の新松戸駅前に次世代ヘルスケア店舗をオープンした。

 

 通常の売場のほかに、3つのサービスを提供している。ひとつは美容コンサルなどを行う「ビューティーケアスタジオ」、さらにヘルスチェックや生活習慣改善サポートを行う「ヘルスケアラウンジ」、そして管理栄養士が常駐し相談によりオーダーメードのサプリを提供する「サプリメントバー」を備え、美と健康をサポートする体制を具現化している。

顧客クラスタを11、商品DNA別に80に分類

 マツモトキヨシは5万SKUを扱い、ユーザー数は約2000万人。計算すると4000億の2乗以上の買物パターンが存在する。だからと言って、闇雲にレコメンドを送りつけたら顧客もうるさがって逃げるだろう。ビッグデータの扱いには慎重を要する。そこで顧客クラスタを美と健康の価値観スコアから11に分類し、アイテムは80の商品DNAで分類した。そこでも様々なデータが浮かび上がってくる。例えば化粧が「面倒くさい」という傾向と「異性にモテたい」というのは負の相関にある、また「化粧を手抜き」と「同性ウケ」も負の相関関係にある。そうした傾向の人は安い化粧水やコンビニのボディーシートを購入している。

 

 「家族想い」のスコアが高い人は、同時に「食生活ケア」「生活習慣」「家族の健康」「自然・無添加」「吟味・検討」という傾向が強く、「自己志向」の人は「SNS利用」「クチコミ」に敏感という分析結果が出た。

 

 今、検討しているのは11の顧客クラスタと80の商品DNAに加えて、「インセンティブ」の付け方による違いやPCでアクセスするのかスマホなのかといった利用する「デバイス」の違い、どこにいるのかを示す「ロケーション」、時間別の動向を示す「タイミング」といった4つの指標をプラスすること。このうちの2 つが当たればさらに反応率は高まるのではないかと予想している。

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