ゴーストレストランの「不」を払拭! きちり「客席のないレストラン」躍進の秘密
外食事業を主軸に運営するきちりホールディングス(東京都/平川昌紀社長)が2023年に出店したテイクアウト&デリバリー専門店「客席のないレストラン」が話題を呼んでいる。「客席のないレストラン」とは、店内に飲食スペースを持たず、テイクアウトとデリバリーに対応する、いわゆる「ゴーストレストラン」だ。23年4月に「初台店」(東京都渋谷区)、7月には「元住吉店」(神奈川県川崎市)をオープンしており、1日当たりの注文数はきちりの既存レストラン業態の約1.5倍もあるという。本稿では、きちりホールディングス取締役 商品統括本部長兼、同社子会社で運営会社のレストランX(東京都)代表の松藤慎治氏を取材し、躍進の理由について聞いた。
調理の様子をオープンにしたゴーストレストラン
きちりホールディングスは、カジュアルダイニング「KICHIRI」やハンバーグステーキ専門店「いしがまやハンバーグ」などさまざまな外食店を全国で120店舗以上運営している。20年にフードデリバリー業態を専門で開発・運営するレストランXを立ち上げ、同社が23年にゴーストレストラン形態の「客席のないレストラン」を開業した。
「客席のないレストラン」は床面積約20坪のゴーストレストラン(店内に飲食スペースがない形態)で、注文はデリバリーとテイクアウトのみ、テイクアウトは自社アプリ、デリバリーは自社アプリのほかUber Eats、menu、Wolt、出前館からオーダー可能だ。全品オリジナルのフードメニューは200種類あり、価格は1200円~1500円程度となっている。
ゴーストレストランはコロナ禍以降、デリバリーの需要が増え新たなビジネスモデルとして定着してきた。一般的にゴーストレストランは看板を設置していないことが多いが、「客席のないレストラン」では店名を大きく表示し、外壁をガラス張りにすることで店外から厨房が見えるようにしている。
きちりホールディングスの松藤慎治氏は「調理の様子をオープンにすることで、お客さまが従来のゴーストレストランに感じていた『どんな人がどのように調理しているのか』という不安を払拭した」と語る。調理を担当するのはシェフの経験がない社員やアルバイトだが、調理工程の一部に「KICHIRI」などの外食業態で使用しているセントラルキッチンを活用することで、クオリティの高い料理の提供を可能にした。
「客席のないレストラン」で提供するフードメニューの多くは、セントラルキッチンで食材の一次加工を行い、店舗で最終調理を行う。たとえば「ハラミ丼」に使用するハラミはセントラルキッチンで下味をつけ、店舗で炭火を使って焼きあげている。接客サービスが必要ないため、スタッフが料理に集中でき、メニューを増やしやすい点も特徴だ。前述した200種類に加え、冬限定の鍋料理や、夏に注文が集中するうなぎ料理など、季節に合わせたメニューを柔軟に追加できる。
また、調理スタッフは配送業務も兼任しており、自社アプリから注文が入った際は商品の配送も行う。注文単価と配送コストのバランスを考慮し、自社配送は店舗から約1km以内の商圏のみで、それより遠方から注目を受けた場合は外部のフードデリバリーが対応する。同社によれば、注文数全体の9割がデリバリーで、そのうちのほとんどがフードデリバリーだという。
松藤氏は「今後、利益を確保しながら店舗を拡大していくためには、自社の配送スタッフを拡充し、自社アプリ内の注文を増加させる必要がある。また、店舗の立地も重要で、店舗から半径3km以内に繁華街があり、かつ半径1~2km以内に高所得者層やニューファミリー層が住むエリアで、駅からの帰宅動線上にあることが条件だ」と説明する。