AI活用で水揚げ予測も!鮮魚売場を革新させる!?スマート水産最前線

兵藤雄之
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AIを使った水揚げデータの予測

 現在、定置網に関して、AI(人工知能)を活用した水揚データの予測が試みられている(定置網AI)。

 過去の音響データ(魚群探知機によるもの)と水揚データ(網ごとに、魚名、数量、単価、金額など)を、AIに学習させておき、現在の音響データを入力すると、水揚データが予測されるというもので、漁業関係者だけでなく、流通事業者にも協力してもらい、その評価を受けているところだ。

「現状では、正解率は5060%程度」だという。

 この数値の評価は、漁業者と流通業者とでははっきりと分かれている。

 漁業者は「十分使える」と言い、流通業者は「最低でも9割以上の正解率でなければ使えない」と言う。漁業者には、自分自身の経験と勘による知見があり、それとAIの予測を組み合わせることにより、水揚予測の確度を上げることができる。しかし、そうした知見を持ちえない流通業者としては、5割近いリスクを冒して、その水揚げの仕入れに動くことは、誰の目にも無謀と映るだろう。

 では、この定置網AIは今後、その精度を上げることは可能なのだろうか。いま以上の有用性を獲得できるのだろうか。

 人智を超えたAIといえば、囲碁の世界チャンピオンを破った「AlphaGo(アルファ碁)」を思い浮かべる人もいるだろう。

 しかし、このアルファ碁と、定置網AIとでは、学習するデータ量が圧倒的に違う。アルファ碁の場合、過去の対局データを学習したうえで、同じように学習した別のAIと対局することが可能であり、コンピュータ世界のスピードで、しかも24時間対局し学習し続けることができる。そうした膨大な学習データの蓄積により、世界チャンピオンを凌駕する知見を持ちえた。

 ところが定置網AIの場合、自然を相手にしたデータの収集が必要だ。1年に1回の漁であれば、30年データを集めたとしても30パターンにしかならない。1日単位の漁だとしても、30年で1万データだ。通常、AIに学習させるデータ量としてはごくわずかであり、ベテランの漁師の(経験と勘による)データとさほど変わらない。それを増やしていくには、今後、水産業者全体の協力が不可欠になってくるだろう。

定置網AIの精度を高めるための方法とは!?

 それでは、どこまで精度をあげれば、有用な定置網AIと呼べるだろう。

 和田氏は「地域気象観測システムアメダス(AMeDAS)による天気予報がひとつの目安になるのでは」と話す。

 アメダスは全国に観測所が1300ほどあり、「気温」、「降水量」、「風向風速」、「日照時間」を観測し、週間天気予報につなげている。週間天気予報であれば、明日の天気予報ほどの精度がなくても十分に利用できる。

 定置網漁業の経営体は、北海道だけで、アメダスの観測所と変わらない約1400あり、全国規模では4000を超している。これらが、日々、アメダスの観測所なみのデータ(ただし、漁業に必要なもの)を共有し、定置網AIで分析を加えれば、相当有用な水揚げ予報になるのではないか、という見立てだ。

水揚げ予報のイメージ(セミナーより)

 たとえば、水揚げ漁港別に、魚種(まぐろ、かつお、ぶり、いかなど)、まぐろ警報・注意報、降水確率のようなかたちで豊漁・貧漁・不漁といった情報などが、わかりやすく提示されるというイメージだ(画像参照)。

 ある魚種がどのように日本近海を上がってきているか、これからどのような動きをするのか、そうした有用な情報として利用できるようになれば、漁業者の経営に大きなメリットが生まれる。流通業者(卸や小売)としても、どの産地で買い付けるのがいいのかの判断材料にもなる。

 これまで水産業のICT化への取組みでは、最新のテクノロジーを活用し、環境・資源・技術の数値化、IoT(モノのインターネット)による現在の見える化などが、ほぼ実現されてきた。しかし、これらはまだ水揚げまでの話だ。そこから先の、売ったり、加工したり、お金に換えていくプロセスとの連携に関しては、まだまだこれからだ。

 水揚げの予測を立て、生産から流通までの一貫したバリューチェーンの最適化をめざす、スマート水産業の実現には、まだ少し時間がかかりそうだ。

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