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コロナ禍の消費者意識の変化で 注目集めるプラントベースフード=MD EDTION

コロナ禍で高まる健康志向、地球環境への意識の変化、SDGsへの関心の高まり、フードテックの台頭などを背景に、世界的に存在感を増すプラントベースフード。日本国内でも、食品メーカー各社が積極的な商品投入を行うほか、小売業各社の取り組みも目立つようになってきた。昨年8月には、消費者庁がプラントベース食品の表示ルールを明確にするQ&Aを公表するなど、行政の側でも市場拡大を後押しする動きが広がっている。

コロナ禍の健康志向で、改めて高まる関心

 このコロナ禍の間に、世界の食マーケットが大きく動き出した。

 その主役がプラントベースフード。感染対策としてのさらなる健康志向、地球環境に対する意識やSDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まり、フードテック企業による食品開発テクノロジーの向上などが、その存在を一層、大きなものにしている。

コロナ禍で高まる健康志向、地球環境への意識の変化、SDGsへの関心の高まり、フードテックの台頭などを背景に、世界的に存在感を増すプラントベースフード。 i-stock/vaaseenaa

 プラントベースフードとは、「動物由来の原材料を配合せず、植物由来の原材料を使用した食品全般」のこと。大豆や小麦などから、肉、卵、ミルク、バター、チーズなどの代替になる加工食品が製造・販売され、飲食店でもメニューとして提供されている。日本でも昨今注目を集めている「大豆ミート」や「アーモンドミルク」「オーツミルク」といった商品が、プラントベースフードにあたる。

 食品業界に特化したトレンドリサーチの世界的リーディングカンパニーINNOVA MARKET INSIGHTS(オランダ、以下INNOVA)では毎年、食のトレンドを公表しているが、ここ数年、プラントベースフードは、一貫してトップ3内にランキングされている。つまり世界的な大きな流れになっているのだ。

 米国の非営利団体である、グッド・フード・インスティチュート(GFI)の調べによれば、2020年の米国内のプラントベースのフードの販売額は、食品売上全体の2倍以上の伸びだった。なかでも、プラントベースミートは、スーパーの「精肉売場」でふつうに販売されているが、本物の肉の代わりではなく、よりプレミアムな製品として購入する傾向も出てきているという。

広がるラインアップ、各社が積極的に商品を投入

 日本国内でも、大豆ミートやアーモンドミルク、オーツミルクとして、消費者がプラントベースフードを直接、目にする機会が増えてきた。

 19年より、主に業務用として、動物性原材料は配合せず植物素材を使った商品の販売を開始したカゴメでは、21年秋から家庭用チャネル向け商品の販売もスタート。現在、レトルトパウチ商品「プラントベース」ブランドとして、カレー、パスタソース、タコライス用ソース、ガパオ用ソースなどを販売している。

 20年春より、大豆やこんにゃくなど植物由来の原料を使用したプラントベースミートシリーズ「NATUMEAT(ナチュミート)」を展開する日本ハムでは、22年3月にターゲットを若年層に変更し全面リニューアルを行い、ハムソーセージカテゴリー、デリカテゴリー、冷凍食品カテゴリーの計11アイテムへと拡充を図る予定だ。

 食物繊維豊富なオーツ麦を使った植物性ミルクでは、ダノンジャパンが、ベルギー生まれの植物性食品ブランド「ALPRO(アルプロ)」より、おいしさと栄養素にこだわった「オーツミルク」を発売。日本コカ・コーラでも、「GO:GOOD おいしいオーツ麦ミルク」の販売を開始した。

 また、J- オイルミルズでは、プラントベースフードの世界的ブランド「Violife」のプラントベースチーズとプラントベースバターを発売している。

 小売業でも積極的な取り組みが目立ってきている。

 流通大手のイオンでは、21年3月、PB「トップバリュ」の健康や環境に配慮したカテゴリー「トップバリュ Vegetiveシリーズ」として、「大豆からつくったミンチ」を発売。肉の一種として、精肉コーナーで冷蔵販売している。

 一方、イトーヨーカ堂とライフコーポレーションは、フードテック企業との取り組みを進めている。

 イトーヨーカ堂は、世界初の焼肉用代替肉を開発したネクストミーツの焼肉用代替肉「NEXTカルビ1.1」と「NEXTハラミ1.1」を全国のイトーヨーカドーで販売。ライフコーポレーションでは、DAIZ開発の丸大豆を原料に大豆特有の臭みをなくした植物肉「ミラクルミート」を採用した春巻など、チルド商品を首都圏店舗の精肉コーナーで展開している。

 このほか、大手コンビニエンスストアでも、当たり前のようの大豆ミートを使用した商品が並ぶようになり、大手フードデリバリーサービスのCMでは「さて、今夜私がいただくのは帰りながら注文したベジバーガーです」というセリフが使われるほど。飲食業界でも、プラントベースフードに関連する商品が注目を集めている。

進むルールづくり 重要となる店頭での訴求

 こうした消費の最前線でのプラントベースフードに関する活発な動きに対し、関係省庁も対応の動きを示している。

 消費者庁は21年8月、食品事業者向けにプラントベース食品の表示ルールを明確にするQ&Aを公表。景品表示法上、問題とならない解釈として、「大豆ミート」「ライス乳」と表示する場合、商品名とは別に「肉不使用」「牛乳や乳飲料ではありません」「野菜で作りました」といった表示があれば、誤認を与えない、といった回答が示されている。

 また、農林水産省は21年12月、国の新たな基準として、大豆からつくる「大豆ミート」の日本農林規格(JAS)案を提示。牛や豚といった動物性の原材料を使用しないことや、肉のような質感や形状を表すよう加工するなどの要件を満たせば、商品の包装にJASマークを表示できるといった内容になっている。

 一方、消費者自身のプラントベースフードに対する見方はどうか。

 インターネット調査会社のマイボイスコムが21年8月、「プラントベースフード」について実施した調査によれば、プラントベースフードの魅力として、「健康に良い」(4割強)、「食物繊維を多く摂取できる」(2割強)、「脂質の吸収を抑えられる」、「ヘルシーである程度の満足感が得られる」(いずれも2割弱)が上位にあげられている。他方、気になることとしては、「おいしいかどうか」(4割強)、「価格が高そう」(3割弱)「本当に安全かどうか不安」などが目立つ。

 政府の動きで、消費者の不安材料の一部は軽減される。しかし、売場での試食が難しいいま、店舗としてどのように顧客に、プラントベースフードの魅力を伝えていけばいいのか。

 前出INNOVAで日本カントリーマネージャーを務める田中良介氏は次のように語っている。

 「日本には大豆を主原料とする、歴史に培われたプラントベースフードが数多くあり、欧米とは条件が違うが、現在の世界的な流れは、止められるものではない。日本のプラントベースフードの売場を見ると、まだ点にすぎない。面での売場の確保を急ぐべきではないか」