米EV の総数は330万台、裕福なEVオーナーたちのお気に入りの小売店は?
多くのチェーンは様子見と試行錯誤
裕福層顧客を取り込む観点からは、店舗に充電施設を併設するメリットが大きい。
米充電ネットワーク最大手であるチャージポイント(ChargePoint)の分析では、小売施設においてEVオーナーが充電する場合、店内での滞在時間が50分増加するという。また、別の充電ネットワークであるブリンク(Blink)は、EVを運転する人の89%が充電中に近隣店舗で商品を購入していると報告している。
ニューメレーターは、EVオーナーの61%が「充電施設のある場所の近くで買物をしたい」と回答したことを明らかにした。具体的には充電ステーションを併設する家具のイケア(IKEA)で買い物をする確率が1.8倍、米アマゾン(Amazon)傘下の高級生鮮ホールフーズ(Whole Foods)では1.7倍上昇する。さらに、前述のコストコや生鮮SM大手アルバートソンズ(Albertsons)が人気の「充電しながら買物」の場所として挙げられている。
しかし、他の多くのチェーンが様子見、あるいは試行錯誤の段階にあることも確かだ。一時は「EVシフトは不可逆で急速に進む」と言われたが、米エネルギー省のアルゴンヌ国立研究所によれば、直近6月の全米EV販売台数は9万6700台と前年割れ、7月は10万677台で同じく前年同月の12万3000台から2万2000台以上も減少、8月も12万1473台と微減だ。明らかに普及は滞っている。
こうした中、多くの小売チェーンでは「EVオーナーの絶対数が依然少ない」「充電施設建設の初期投資額が大きい」「技術進歩のため充電器がすぐに旧型になる恐れがある」などの理由から、二の足を踏むところもある。たとえば、コンビニと併設されたガソリンスタンドを全米で展開するケイシーズ・ゼネラル・ストアーズ(Casey’s General Stores)は、各店舗におけるEV充電器設置の計画を延期した。
EVの充電レベルが80%に達するまでに平均35分もの時間を要し、まだ実用の段階に達していないと判断したことに加え、北米ではCHAdeMOやCCSなど乱立した充電規格がテスラのスーパーチャージャー(Supercharger)に統一されて淘汰が起こったことを考えると、今日の設備投資が明日には時代遅れになる可能性が高いからだという。
加えて、便利な急速充電を提供するステーションでも、「充電価格が高すぎる」との不評が聞かれる。その一方で、充電時間の長いレベル2(交流)から、急速充電のレベル3(直流)への移行が進まず、現在建設が進む多くのレベル2施設は完工間もなく時代遅れとなって投資が回収できない懸念もある。
こうした中、一部の充電施設では充電中にヨガや瞑想などのセルフケアができるスペースを設置したり、コーヒーマシンやマッサージチェアでEV所有者に訪問してもらう工夫をしている。だが、これらの施策でどれが「正解」であるのか、まだ答えは出ていない。
EVドライバー側からすれば、充電料金の適正レベルでの設定や立地選定が重要であることは言うまでもない。また、たとえ民間小売企業の事業であっても、連邦政府のEV充電施設建設向け補助金も不可欠だ。EV普及が踊り場に入った今、コストコのような成功例が増えていくのか注目される。