上場小売業2022年度決算、営業収益トップ10ランキング&23年度のゆくえ
世界情勢の混乱を背景とした値上げラッシュ、エネルギーコストの上昇など、強い逆風にさらされた小売業の2022年度決算。コスト増が利益を押し下げ、減益決算が相次いだなか、一部の優良企業は過去最高業績を更新するなど、企業間格差が見られている。本稿では、『ダイヤモンド・チェーンストア』2023年7月1日号特集「決算2023ランキング」からデータの一部を抜粋し、営業収益上位企業の動向を見ていく(営業収益は売上高+営業収入 売上高は主に商品の売買に伴うもので、営業収入は卸売上や不動産収入の合計。売上として全額計上する企業もあれば、営業収入を多く計上する企業もあるため、基準を同じにするために営業収益を使っている)
ランキングトップは2年連続であの企業!
『ダイヤモンド・チェーンストア』誌では、毎年7月1日号の「決算ランキング」特集で、上場小売業(外食を除く)の営業収益ランキングを掲載している。
今年度のランキングでトップだったのは、前年度に続いてセブン&アイ・ホールディングス(東京都:以下、セブン&アイ)だった。前年度に長年不動の1位だったイオン(千葉県)を抜いて、ランキング首位に躍り出た同社。22年度は、21年5月に買収手続きが完了した、米ガソリンスタンド併設型CVSの「スピードウェイ(Speedway)」の業績がフル加算されたことに加え、ガソリン価格も高水準で推移。そのほか為替影響などもあって営業収益は11兆円を突破しており、2位のイオンに2兆円以上の差をつけている。
図表●上場小売業営業収益ランキングトップ100
単位:百万円、%
※CVSの営業収益はチェーン全店売上高を使用
※ファミリーマートは単体のチェーン全体売上高
※ファミリーマート、ファーストリテイリング、J.フロント リテイリングはIFRS
PPIH=パン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス
順位 | 社名 | 営業収益 | 増減 | 営業利益 | 増減 | 決算期 | 業態 |
1 | セブン&アイ・ホールディングス | 11,811,303 | 35.0 | 506,521 | 30.7 | 23/2 | ー |
2 | イオン | 9,116,823 | 4.6 | 209,783 | 20.3 | 23/2 | ー |
3 | ファミリーマート | 2,957,564 | ー | 64,015 | ▲ 2.0 | 23/2 | CVS |
4 | ローソン | 2,545,463 | 4.2 | 55,056 | 16.9 | 23/2 | CVS |
5 | ファーストリテイリング | 2,301,122 | 7.9 | 297,325 | 19.4 | 22/8 | AP |
6 | PPIH | 1,831,280 | 7.2 | 88,688 | 9.2 | 22/6 | SP |
7 | ヤマダホールディングス | 1,600,586 | ▲ 1.2 | 44,066 | ▲ 32.9 | 23/3 | CE |
8 | マツキヨココカラ&カンパニー | 951,247 | 30.3 | 62,276 | 51.6 | 23/3 | DgS |
9 | ニトリホールディングス | 948,094 | 16.8 | 140,076 | 1.3 | 23/3 | SP |
10 | ツルハホールディングス | 915,700 | ▲ 0.4 | 40,568 | ▲ 16.1 | 22/5 | DgS |
以下3~7位までは、ファミリーマート(東京都)、ローソン(東京都)、ファーストリテイリング(山口県)、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都)、ヤマダホールディングス(群馬県)と、顔ぶれに変化はなかった。
8位は、DgS大手のマツキヨココカラ&カンパニー(東京都)。2022年度決算でココカラファイングループ(神奈川県)の業績がフル加算(前年度は下期のみの業績)されたた大幅増収となり、昨年の15位から急浮上している。そのほか9位にはニトリホールディングス(東京都)、10位にはツルハホールディングス(北海道)がランクインし、昨年9位だったビックカメラ(東京都)は11位に後退した。
国内小売2トップの最新動向
ランキング上位企業の動向をみていくと、首位のセブン&アイの2023年2月期の連結業績は、営業収益が対前期比35.0%増の11兆8113億円、営業利益が同30.7%増の5065億円だった。
セブン&アイの経営をめぐっては、アクティビスト(物言う株主)との対立が注目を集めた。米投資ファンドのバリューアクト・キャピタル(ValueAct Capital Master Fund L.P:以下、バリューアクト)は、セブン-イレブンのスピンオフ(分離・独立)を求めてセブン&アイ経営陣と激しく対立。井阪隆一社長を含めたセブン&アイ経営の退任を迫る株主提案を提出する、プロキシーファイト(委任状争奪戦)を繰り広げた。最終的に、23年5月に開かれた株主総会において、バリューアクトの株主提案は反対多数で否決され、現経営陣の続投が決まっている。
その翌月の23年6月、セブン&アイはイトーヨーカ堂と首都圏で食品スーパーを展開するヨーク(東京都)を23年9月1日に合併させることを発表した。イトーヨーカ堂を存続会社としヨークを吸収、首都圏におけるスーパーストア事業を再編してシナジー創出、運営効率化を図るとしている。
なお、22年11月に発表したそごう・西武の売却案については「西武池袋本店」(東京都豊島区)の改装方針をめぐって条件交渉が難航しており、2度の延期を経て「無期限延期」となっている。
ランキング2位のイオンの23年2月期の連結業績は、営業収益が同4.6%増の9兆1168億円、営業利益が同20.3%増の2097億円だった。
イオングループでも再編の動きが見られる。イオンは23年11月をめどとして、SMのいなげや(東京都)の持分保有比率を17.01%から51.0%に引き上げ、連結子会社化する。さらに24年11月をめどに傘下のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都:以下、U.S.M.H)といなげやとの経営統合を進めるとしている。
この経営統合が実現すれば、U.S.M.Hの営業収益は1兆円に迫る規模となり、国内最大のSM連合が誕生する見通しだ。
どうなる? 小売業の2023年度決算
小売業の23年度決算はどのような着地となるのか。
各業態各社が公表している23年度の業績予想を見ると、慎重な見通しとしているところが多いようだ。コロナ禍が収束し、経済活動は正常化に向かいつつあるものの、22年後半から続く値上げラッシュの勢いはいまだ衰えず、現在も商品・サービスの値上げが連日のように報じられている。22年3月頃から続く円安進行も解消の兆しは見えず、仕入れ価格、電気代、燃料価格は高止まりしたままだ。
23年度に注目されるのが経済正常化の「その後」だ。値上げラッシュから早くも1年が経とうとしており、消費の優先順位は変わりつつある。コロナ禍での自粛生活の反動として期待される「リベンジ消費」もいずれ一巡する。そのときに競争はどのような様相となっているのか、正確な見通しを立てるのは難しい。少なくとも、仕入れ価格、エネルギーなどのコスト増は当面続くと見られ、23年度もコストコントロールが重要になるのは間違いないだろう。
22年度も見通しが立てづらい中での経営となったが、優良企業と言われる企業の多くが好業績を残している。なぜ、不透明な状況下でもあの企業は強いのか。
「決算ランキング2023」特集では営業収益だけでなく、ROAやROE、総資産回転率、売上総利益率、在庫回転率、時価総額といった経営指標のほか、既存店売上高や期末店舗数といった小売経営において重要なデータを主要業態別にまとめている。各業態各社の業績指標を読み解けば、強さの理由が浮かび上がってくるはずだ。
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