新型コロナウイルスの拡大で、社会のあちこちで様々な「ひずみ」が目立つようになりました。医療体制は心許ないものですし、IT化が進んだ割に、リモートワークのできない職場のいかに多いことか。子供たちの学習方法も、多くは数十年前とさほど変わっていないようです。こうした「ひずみ」を解消すべく、この試練を機に人と人をリモートでつなぐ技術は社会のすみずみに浸透していくことでしょう。
スーパーの店頭でも、新型コロナであらわになった「ひずみ」を確認できます。最たるものを1つ挙げれば、それはレジ会計ではないでしょうか。
感染不安でレジのストレス倍増中
緊急事態宣言が出てからというもの、スーパーのレジカウンターには飛沫防護のための透明シートがすえ付けられるようになり、レジに並ぶ列は間隔をあけるようになりました。レジ待ちの顧客にも普段以上のストレスがかかり、顧客をさばく従業員もリスクとストレスを抱えています。
今回のような非常事態に限らず、平時からレジ会計は問題を抱えていました。顧客が店に抱く不満を調べれば、大抵はレジ会計が最も多くなるものです。そのうえ店舗が人件費を最も割いて運営するのがレジ業務です。
考えてみると、顧客にとってレジ会計は義務でしかありません。そこに買物の楽しみはないはずです。店側にとって代金をいただく極めて重要な業務であることは間違いありませんが、並んだ時点で顧客の購入内容は確定しているので、レジ業務はプロモーションでもマーケティングでもなく、重要ではあるものの作業でしかありません。しかも顧客の気分を損ねる恐れが最も高い、危険な(?)作業です。
スーパーはセルフサービスをうたう業態ですが、レジでの会計はなかなかセルフ化が進みません。セルフレジも以前からあり、浸透しているチェーンも中にはありますが、業界のマジョリティにはなっていません。むしろ商品スキャンは店員、支払い操作はセルフというセミセルフの方が業界水準になりつつあります。ただ、そのセミセルフでもレジ待ちは避けられず、感染不安でストレス倍増というのが現状です。
新型コロナを経験したうえで描くべき未来のレジは、どんなものになるでしょう? 顧客のレジ待ち解消と店のコスト削減の両立は、既存の仕組みでは難しそうです。
買物途中のスキャンで、レジ待ち解消
解決策と思われるものは、すでに提示されています。米国のAmazon Goはその一例で、ローソンも画像認識技術を使ったレジレス店舗をオフィス内立地で実験しています。ただ、画像認識によるレジレス化をスーパーの売場規模や取扱商品数で導入するのは、まだ現実的とは言えません。電子タグを使う仕組みも同様です。
今のところ、バーコードをスキャンするのが最も現実的のようです。この業務をセルフサービス化できれば店のコストを下げられます。しかし、セルフレジに運んでからスキャンしていたのでは時間を要するので、レジ待ちは解消されません。解決策は、顧客が商品を選ぶ流れの中で、自らスキャンしてもらうことです。
トライアルHDが一部店舗に導入している「レジカート」は、カートに備え付けられた端末で商品をスキャン、事前登録したカード情報でレジに並ばずに決済が完了するというものです。4月15日時点で福岡・佐賀の19店で稼働中、4月24日にリニューアルオープンする千葉市稲毛区の長沼店にも今後、導入する予定です。
レジはスマホに置き換わる?
イオンは2月から貸出用のスマホ端末で行う「レジゴー」を開始しています。買物中に顧客が自らスキャン、決済は専用レジで済ませるというものです。どうせならレジレスにしてもよさそうですが、その代わり決済手段は現金・電子マネー・クレジットから選択可能になっています。3月末で4店に導入、今期中に20店で稼働させるほか、秋にはスマホアプリのリリースも予定しています。
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)は、独自のスマホアプリ「スキャン&ゴー」を開発、カスミの無人店舗「オフィスマ」や茨城県内の2店舗で稼働中です。クレジットカードと紐付けし、レジに並ばずに決済が完了します。この仕組みをどれくらいの規模・ペースで広げるかは明確ではありませんが、今期スタートしたUSMHの新3ヵ年計画では、「チェックアウトシステムの変革」をテーマの1つに掲げています。
トライアル、イオン、USMHのセルフスキャンシステムは、顧客のレジ待ち解消&店のコスト削減を両立させる方法として現実的なアプローチです。買物中のスキャンは面倒なようですが、最後にまとめてやるセルフレジよりも心の負荷は少ないはずです。買物中に合計金額がいくらになったか確認できるのも、顧客には新たな利便性になると思います。
問題は、顧客が買物習慣を変えるハードルは高いということですが、新型コロナの経験を通じて世の中は変わるかもしれません。