消費税が10%となってから、同時に、軽減税率制度が導入されてから、早8カ月が経とうとしています。さしたる混乱もなく、増税も軽減税率制度もスタートしてきたという格好ですが、なんとも言えない“後味の悪さ”を感じるコーナーが食品小売業の店舗にはあります。それがイートイン。今回はわだかまりのない利用促進策を紹介します。
わだかまりを解消する方法
2019年10月以降、食品の消費税率は同じ商品でも持ち帰れば8%、その場で食べれば10%という扱いになりました。
しかも、スーパーやコンビニでは顧客の自己申告に委ねるというルールです。以来、イートインコーナーは「あの人は10%払って食べているんだろうか?」の疑問が付きまとうグレーゾーンになってしまいました。それでもトラブルをあまり聞かないのは、国民性でしょうか。店も顧客同士も黙認あるいは黙殺というのか、白黒をつけないように振る舞っているようです。とはいえイートイン席の利用を控えるようになった人も少なくないのでは? 個人的には、めっきりイートインの利用機会が減りました。10%払うのは嫌だし、8%で済ますのも・・・多少は気兼ねしますから。
しかしスーパーにとって近年のイートインスペースは、新しい食シーンの開拓という重要な機能を担っていたはず・・・。税法なので仕方がないとはいうものの、複数税率の導入以降、積極的に利用促進を図られているでしょうか?
イートインをグレーゾーンにしない方法が1つだけあります。それが良いというつもりはありませんが、気兼ねなく利用してもらうには、これしかないというやり方です。
8%も10%も税込価格を揃えるのです。つまり食べて帰ると顧客が申し出た場合、店側は本体価格を割り引くことになります。
外食チェーンではわりと見られる施策ですが、スーパーでもごく稀に採用されています。ヨークベニマルとベイシアは、税込価格を揃えたレアな事例です。
そのように決定したのは総合的な判断からですが、根本にあるのは顧客が気兼ねなく利用できるようにという配慮です。
ヨークベニマルの大髙善興会長は言いました。「親子でイートイン席を利用するとして、子供に『おかしいな。うちは8%しか払っていないのに』なんて思わせたくない」。
グレーゾーンが存在するのは法律の問題です。企業努力で2%分を飲み込む必要はないわけですが、現行の法制で、イートインの利用にわだかまりをなくすにはこれ以上の策はありません。ヨークベニマルはこの施策の結果、増税後もイートインの利用に変化はないそうです。
結果的に利用状況の変化がないチェーンは他にもあるかもしれませんが、ヨークベニマルの利用客には心のわだかまりがないという決定的な違いがあります。
イートイン利用客を前向きに開拓
顧客にわだかまりがないからこそ、店側もイートインの利用をさらに促進するために積極的な施策を打てます。
ヨークベニマルの総菜子会社であるライフフーズは、一部店舗で増税前からカレーやたこ焼き、ソフトクリームなどの軽食を提供していました。今春にはラーメンを追加します。提供方法は持ち帰り用の使い捨て容器ではなく、洗浄して再利用する丼です。増税前にはテイクアウト形式を強化する時期もありましたが、そうではなく、以前からの戦略テーマである「店で食べて帰る」という利用シーンの開拓に邁進する姿勢です。
ベイシアのイートインスペースといえば、18年3月オープンの勝浦店(千葉県勝浦市)以降の店は、「ハナカフェ」というスタイルです。ベーカリー売場と一体で運営するのは他のチェーンと共通ですが、ベイシアの場合は吸収したフードサービス子会社のノウハウを継承し、ラーメンやワンプレートメニュー、ケーキ、豊富な飲料メニューなど、外食に近いサービス内容に特徴があります。
橋本浩英社長は、「増税後も利用が落ちておらず、施策は成功」としています。
20年3月6日にリニューアルオープンした前橋吉岡店(北群馬郡吉岡町)からはフレンチトーストとコーヒー、杏仁豆腐が付いて390円というモーニングセットを導入、利用シーンの拡大を図ります。
イートインは一般的に、休憩ついでに飲食需要も取り込みたいというスタンスですが、ハナカフェは、イートインを利用するために来店してもらうことを目指しています。橋本社長の志は高く、「ハナカフェが来店動機になるようブラッシュアップしていく。最終目標はハナカフェの路面店を展開すること」と言います。
繰り返しますが、総額を揃えることが良いと言いたいわけではありません。消費税2%分を飲み込むという処置は、税制に求められていないことです。それを企業があえてやる理由は、理屈だけではないようです。その処置には意図があり戦略もありますが、根柢には「思い」があります。ここでは、その「思い」から描くイートインの活用戦略に注目しました。