相次ぐ値上げに人手不足も再来? 課題山積の大手牛丼チェーンの現在

棚橋 慶次
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円安に人件費増……この先の牛丼価格は

 大きな要因の1つが為替だ。2011年前後、円ドル相場は80円を切っていた。周知のとおり、足元の為替相場は急激な円安が進行し、現在は150円前後で推移している(10月25日現在)。10年前と比べて、円が持つ価値が半分になったことになる。

 円安は、食材の多くを輸入に依存する外食産業を直撃する。牛丼チェーンも、牛肉のほぼ全量を、米国をはじめ海外輸入に頼っている。

 牛肉の輸入価格は、ドルベースでも上昇している。牛肉の具材として使われることの多い米国産牛肉の1kg当たり輸入価格(運賃・保険料含む)は、10年前の4.21ドルから直近では5.98ドルと4割上昇している。

 食材費が高いといわれる牛丼だが、それでも原価率は3割強に過ぎない。食材費上昇だけなら、まだ乗り切れる。ただ、問題は人件費も高騰している点だ。

 賃金が増えない日本にあっても、パート・アルバイトの時給は上昇を続けており、その中でも飲食系は対前年比約5%の伸びを見せている。人手不足に、最低賃金引き上げは重なり、人件費増は待ったなしだ。

 とくに人手不足問題は深刻で、店舗スタッフの採用は厳しさを増す一方だ。かつて、すき家の「ワンオペ」が社会問題となったこともあって、「牛丼バイト=ブラック」というイメージも根強く残る。スタッフを確保できないという状況になれば、店舗拡大どころか現状の店舗数維持、さらには深夜営業さえも困難になる時代が再来するかもしれない。

 「個食」のイメージが強い牛丼は、コロナ禍でも客足はそれほど遠のかなかった。世帯当たり人数が中長期で減少し、単身世帯が増える中で、牛丼チェーンは大衆にとって心強い存在だ。

 ただ円安を背景に、「牛丼=安い」というこれまでの常識は崩壊しつつある。この先の分水嶺となるのはワンコイン価格、つまり「並盛500円」のラインだろうか。いち消費者としては、価格アップの圧力を最低限にとどめ、「安くて、うまい」を守り続けてほしいと願うばかりだ。

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