ヤマダHD山田会長インタビュー、長期で臨む「くらしまるごと」戦略 新経営体制で全力投球へ
ヤマダホールディングス(群馬県/山田昇会長兼CEO:以下、ヤマダHD)は、今期から2030年3月期までの5年間の新中期経営計画を策定し、「くらしまるごと」戦略の総仕上げとする。それを具現化したフォーマット「LIFE SELECT(ライフセレクト)」を積極出店している。創業者の山田昇会長に、経営環境の変化や今後の成長戦略について聞いた。
なぜ〝脱家電〞に踏み切ったのか
―家電量販店をめぐる環境をどう見ていますか。
山田 人口減少、少子高齢化が進み、大きな影響を受けている。その結果、ここ10年くらい、家電市場は縮小している。家電量販店、メーカーの製販ともに経営改革が必要だ。とくに国内メーカーは力がなくなって、中国メーカーが台頭してきている。

1943年2月11日生まれ、宮崎県宮崎市出身。66年、日本ビクター(現:JVCケンウッド)入社。73年に群馬県前橋市で電気店「ヤマダ電化サービス」を創業。83年、株式会社ヤマダ電機を設立し、代表取締役社長に就任。2025年4月より、代表取締役会長兼CEO(現任)
―御社は業界の中でも他社に先駆けて〝脱家電〞に舵かじを切りました。そのねらいについて教えてください。
山田 当社は戦後、いち早くこの業界に入り、地域のメーカー系列店から系列以外の商品も扱う混売店、そして量販店へと変化してきた。常に業界の先頭を走ってきて、2011年3月期のピーク時は、売上2兆1532億円、経常利益1378億円となり、市場シェアの4割を占めた。
商品の差別化が難しいなかで、圧倒的な店舗開発力と、絶対的な価格優位性で売上を伸ばしてきた。しかし、全国的に店舗展開を進めて自社競合も避けられなくなって、価格優位性も出しにくくなり、他社にシェアを取られることが目に見えていた。これを解決するには、目先の利益にとらわれない長期的な戦略が必要だった。
幸い、当時すでに約6000万人の会員顧客があったので、この財産を生かそうと考えた。従来のターゲットはあくまで個人だったが、これを3世代の家族全体に広げるなかで、「くらし」というキーワードが出てきた。
そこで18 年に掲げたのが「くらしまるごと」戦略だ。衣食住の「住」に的を絞り、主力の「デンキ」に加えて、「住建」「金融」「環境」と、事業領域を拡大して、「くらしまるごと」を支える商品やサービスの提供をめざした。
21年には、家電や家具・インテリア、リフォーム、住宅などを揃えた新業態の「LIFE SELECT(ライフセレクト)」を出店した。23年3月期~25年3月期までの前中期経営計画では、デンキセグメントの店舗開発が予定どおりにできずに、目標値を下方修正せざるを得なかった。
今期は30年3月期までの新たな5年間の中期経営計画に基づき、「くらしまるごと」戦略の総仕上げとして、ライフセレクトをさらに「くらしまるごと」を実現する店舗に進化させていく。今後、ライフセレクトが増えれば、一段と各事業のシナジーが出るだろう。
試行錯誤の末にたどり着いた新業態
―コロナ禍で消費者のライフスタイル、経営環境が大きく変化しました。それにより売場づくり・フォーマットの考え方は、当初と変わりましたか。
山田 当然変化はあった。最初に住宅関連商品を取り込んだのは、17年に出店した「家電住まいる館」で、2000坪の売場に、家具、雑貨、リフォームを加え、不動産コーナーを併設した。そこから試行錯誤を重ねて、売場面積3000~4000坪に家電、家具・インテリア、生活雑貨、住宅、リフォームまで揃えたライフセレクトのスタイルができた。
50万人商圏に、核店舗としてライフセレクトを出店し、そのまわりに「テックランド」「web・com(ウェブドットコム)」店、「アウトレット」などの業態を展開し、平日は近くのテックランド、土日には品揃えとサービスが充実しているライフセレクトに行くというように顧客に使い分けされて、各フォーマットが軌道に乗ってきた。
現在、2500坪以上のライフセレクトが39店舗あり、そのうち、3000坪以上ある理想的な店舗が半分を占める。今後、さらに250店舗くらいは出せるだろう。年間10店舗出せば、あと25年かかり、長期戦略で臨まなければならない。
―ライフセレクトは、ホームセンター(HC)など他業態との共同出店が多くなっています。今後も共同出店が中心になりますか。
山田 最初は単独出店していたが、徐々にあちこちから共同出店の誘いがかかるようになった。HCや食品スーパーは、家電量販店に比べて商圏が狭いから、家電量販店との共同出店は客数増の効果があり、お互いにメリットがある。また、共同出店では大規模な物件が必要だ。そうなると、物件数が少なく、あるとすれば、自治体が絡む場合が多く、市町村からも出店依頼が来るようになった。
今は、大型のライフセレクトの出店が理想なので、開発部隊はさまざまな企業にアプローチしている。
―ライフセレクトは標準化したフォーマットに見えますが、地域ごとの需要にはどのように対応していますか。
山田 地域により売場づくりの考え方は異なる。たとえば、今年6月にオープンした、旗艦店舗の「Tecc LIFE SELECT 横浜本店」(神奈川県横浜市)は住宅密集地にあり、クルマで30分以内が来店の許容範囲だろう。ところが、郊外型では高速に乗って1時間かけても来店する。同じ50万人商圏でも、広域商圏では土日型になり、横浜のような狭商圏では平日も来店する。横浜本店は年間100億円以上売れるだろうが、郊外型の売上はその半分で、売上の差も大きい。
そういう違いに合わせて売場も変えるが、基本的にはライフセレクトの品揃えは大きくは変えない。体験型で3世代が楽しめて店舗滞在時間を延ばすというコンセプトは共通だ。
―国内のライフセレクトをブラッシュアップしていくなかで、今後、海外の店づくりも変わっていきますか。
山田 海外では「ベスト電器」ブランドでシンガポール、マレーシア、インドネシアに出店している。シンガポールは成熟しているが、とくにインドネシアはこれから有望な市場だ。今、海外ではサプライチェーンなどの仕組みづくりを推進し、来年あたりからはその成果を出せるだろう。
しかし、インドネシアやマレーシアはまだ所得は低く、中産階級が十分に育っていないので、ライフセレクトの最新バージョンを展開するのは無理がある。そのあたりは臨機応変に日本の店舗のよい点を取り入れていく。
続きはダイヤモンド・ホームセンター誌でご覧いただけます。






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