キャシー松井氏に聞く ビジネスを拡大し続けるためにユニクロが取り組むD&I

北沢 みさ (MK Commerce&Communication代表)
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トップは、自分がマイノリティになった経験がない

 D&Iを推進していくには、組織のトップの意識改革が重要だが、実は日本企業のトップの意識を変えることはとても難しいのだという。

 「日本企業の中で日本人だけでビジネスをやってきてトップに立った、という人は、自分がマイノリティである経験をしたことがないということが多いのです。ですから、マイノリティの人たちがその職場で毎日どういうふうに感じているのかを理解してもらうためのトレーニングが必要です。たとえば部下にLGBTQの方がいる場合、どういった配慮が必要なのか、少しの理解があるだけで、関係はずっとよくなります。」(松井氏)

 そしてトップの意識が変わったら、次にやるべきことは社内への浸透だ。

 「どの企業も、組織の全員が腹に落ちて納得するのは簡単なことではありません。やはり、トップのコミットメントとして、何百回、何千回、これがなぜ大事なのかということを言わないといけません。もう一つは、D&Iがポジティブなことにつながるという具体例の共有です。多様な人々をインボルブしたプロジェクトが成果を出している成功例を共有していくことも効果的です」(松井氏)

D&Iはコストではなく、未来への投資

 同時に評価制度を変革することも重要だという。

 「私の経験では、人間の行動を変えるためには、評価の尺度に組み込むことがスピードアップに有効なテクニックです。人事評価は在籍年数などの時間軸ではなく、その人の成果、アウトプット、パフォーマンスにフォーカスするべきです」(松井氏)

 「属性で人を評価しない文化は、採用時にも関わってきます。たとえば顔写真付きとか、名前で男女の区別がつく、外国人だとわかるといったことをなくし、属性によるアンフェアな評価が起こらないようにしないといけないといけません」(松井氏)

 「D&I活動をやって、資金を使うと、すぐにリターンを求める人がいますが、D&Iは今日明日や来年すぐに結果が出るものではありません。未来のための長期投資と考えて取り組まないと、結果も出ません」(松井氏)

キャシー松井氏

 ファーストリテイリングは、2022年9月より、東京本部に加え、ニューヨークにも本部を設置した。

 ニューヨークには以前からオフィス機能はあったものの、このニューヨーク本部は、現在世界戦略の指揮を執る東京本部と同じくGHQ(グローバルヘッドクオーター)としての機能を強化した。ニューヨーク本部に置くのは商品開発、マーチャンダイジング、マーケティングなど、商品づくりの機能はもちろん、ITやグローバル物流ネットワークなど、最先端の米国のテクノロジーを備えていくのが狙いだ。

 それまでは、GHQの機能は東京に一極集中しており、すべての事業コンセプトを東京のGHQから世界各国へ波及させてきていた。これを今後は世界の主要都市に分散し、世界中から優秀な人材を集めて、その経営者同士が連携し合うことでよりスピーディにビジネスを拡大していこうとしているのだ。

 この試みは、まさに松井氏の言うD&Iのゴールを目指したものであり、すでにその効果が出ていると言っていいのかもしれない。

 なお、ファーストリテイリングは2023年8月期(連結)の売上収益が前期比19%増の2兆7300億円、営業利益は過去最高の3700億円になる見込み(※)だと発表している。
※本決算は2023年10月に発表予定。

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記事執筆者

北沢 みさ / MK Commerce&Communication代表

東京都出身、日本橋在住。早稲田大学第一文学部卒業。
メーカーのマーケティング担当、TV局のプロデューサーの経験を経て、
1999年大手SPA企業に入社しマーケティング・PRを12年、EC・WEBマーケティングを8年担当し、ブランドの急成長に寄与。
2018年に独立後は、30年に渡る実務経験を活かし、小売・アパレル業界を中心に複数企業のアドバイザーとして、マーケティングおよびEC業務を支援中。

 

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