アスリートと取り組む次世代育成 #2 車いすテニス・国枝慎吾選手と歩んだ14年間

北沢 みさ (MK Commerce&Communication代表)
Pocket

勝ち続けることの難しさ

 国枝選手とユニクロのもう一つの共通点は、「勝ち続けている」ということだろう。もちろん、国枝選手もケガに悩み引退を考えることもあったし、ユニクロもブーム後の購買者の離反に苦しんだ時期もあった。しかし、ともにそこを乗り越え、さらに大きく成長し、今では他の追随を許さない存在となった。勝者ゆえの悩みはあるのだろうか。

国枝慎吾選手

 「負けたら、課題ってわかりやすいんですよ。でも、勝っていると課題がわからなくなってしまう。成功体験が邪魔をして、ここで変えたら負けてしまうのではないかというマインドになるから。逆に、負けている人は変えないと勝てないわけです。負けている人たちは、そうしてどんどん成長するから、勝っている人が何も変えずにいると、相対的には衰退している、ということになるんです。だから、勝っていても、なお自分の中に課題を見つけていくということは、意識しないとできないことですし、ずっと意識してやってきました」

 「自分の中のやるべきことを明確にして、それに取り組んでいく、その繰り返しです。日々の生活の中でそのプロセスを作っていくには、24時間テニスについて考え続けることしかありません。食事していても、お風呂でもトイレでも、テニスのことを考えているか、テニスの動画を見ています。食事も、ある意味仕事として、テニスのために食べているわけですし、オフもまたテニスをするために必要な時間です。そうやって、生活の全てをテニスに捧げてきた、と言えると思います」

 国枝選手のテニスへの向き合い方は、柳井正社長のビジネスへの向き合い方と重なる。柳井正社長も、勝ち続けるために24時間ビジネスのことを考え、勝っても、なお課題を追求しているはずだ。国枝選手は、柳井正社長の目には、自社が協賛するアスリートというよりむしろ、ビジネスの先にある大きな目標を共有する盟友のように映っているのではないかと思う。

 次回「第4回 アスリートと取り組む次世代育成 #3 車いすテニス・国枝慎吾選手と歩んだ14年間」は、7月1日掲載。2023年1月に引退を発表した国枝選手とユニクロとのこれからを取材した。

1 2 3

記事執筆者

北沢 みさ / MK Commerce&Communication代表

東京都出身、日本橋在住。早稲田大学第一文学部卒業。
メーカーのマーケティング担当、TV局のプロデューサーの経験を経て、
1999年大手SPA企業に入社しマーケティング・PRを12年、EC・WEBマーケティングを8年担当し、ブランドの急成長に寄与。
2018年に独立後は、30年に渡る実務経験を活かし、小売・アパレル業界を中心に複数企業のアドバイザーとして、マーケティングおよびEC業務を支援中。

 

執筆者へのコンタクトはこちらへ

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態