2023年4月、北関東自動車道の前橋南インター近くに売場面積750坪の巨大なユニクロ店舗がオープンした。トータルクリエイティブディレクション・デザイン監修は佐藤可士和氏、建築設計・サステナビリティデザインを統括したのは竹中工務店だ。この店舗は、これまでのロードサイド店の在り方を今一度見直した新フォーマット店舗で、環境にも配慮した最新型だという。店舗の消費電力を55%削減した驚異のサステナブル設計について、ファーストリテイリング 出店開発部店舗設計施工チームシニアマネージャーの髙木肇子氏、竹中工務店 東京本店設計部アドバンストデザイングループ長の花岡郁哉氏に取材した。
ユニクロで初めて、環境配慮を優先した店舗
「ユニクロ前橋南インター店」は、群馬県だけでなく新潟県や埼玉県といった広い商圏からの集客を期待できる立地で、近隣にはすでに大型量販店のコストコやベイシアなどがあり、IKEAも2024年春のオープンに向けて建設中という一大ショッピングエリアだ。しかしユニクロでは、この店舗は「商品を売ること」に加えて、実現したかったことがあるという。一つは地域に開かれ、人が集まる場所になること。そしてもう一つは環境配慮へのチャレンジである。
ファーストリテイリングは2021年12月に、「長期的なサステナビリティ目標&アクションプラン」を発表した。その中で「2030年度までに、自社のオフィスや店舗で温室効果ガス排出量を19年度比で90%削減する。まずは店舗設計の段階からエネルギー効率の高い店舗フォーマットを開発し、2023年度中にプロトタイプとなる店舗を出店する」と宣言している。今回オープンした前橋南インター店は、このプロトタイプ店舗なのだ。
消費電力を55%削減した驚異のサステナブル設計
店舗で消費される電気エネルギーのほとんどは、照明と空調によるものだ。前橋南インター店では、様々な省エネルギー技術を採用することで、まず店舗における消費電力を、従来の店舗より40%削減した(※)。さらに屋上の太陽光パネルによる発電で消費電力の15%を賄い、合計すると、従来の店舗に比べて、理論上55%の消費電力を削減できるという。これは驚くべき数字だ。
※同じ群馬県内にある「ユニクロ富岡店」(2018年10月オープン)が「ユニクロ前橋南インター店」と同面積と想定した場合の比較
この店舗は、国土交通省のガイドラインに基づく第三者認証の「BELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)で最高ランクの星5つを取得した。また、国が定める建築物エネルギー消費性能表示制度(Building Energy Index)において、店舗の設計一次エネルギー消費量を67%削減可能と認められた。さらにZEB Ready(再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量削減に適合した建造物)の認定もすでに受けている。
ロードサイド店を進化させるという課題
「都心部には新しい店舗もできている一方で、地方のロードサイド店舗をどのように進化させていくべきかということは長年の課題でした。そこで、今回はサステナブル設計にチャレンジしました。これまでのロードサイド店舗は、設備に関してもできるだけローコストで作っていますが、それだとランニングのエネルギーコストはかかってしまう。今回の前橋南インター店では180度考え方を変え、イニシャルの建築コストが若干上がったとしても、長い目で見た時にはエネルギー消費量をセーブしたりCO2を削減していく方が価値がある、という考え方にシフトして取り組みました」と語るのは、出店開発部店舗設計施工チームの髙木肇子シニアマネージャー(以下、髙木氏)だ。
目標は、省エネで消費電力の40%以上削減
商業建築の設計においては、窓のない倉庫のように閉じていたほうが光も温度もコントロールできて効率がいいはずだ。実際、前橋南インター店の近隣にある他の量販店はいずれも倉庫のような外観である。
ところが、ユニクロ前橋南インター店は「地域の皆様に開かれた店」というコンセプトでデザインしているため、全面ガラス張りにしている。店舗設計のプロジェクトチームは、佐藤可士和氏のデザインを形にするのと同時に、省エネで消費電力の40%以上を削減するという目標を設定した。あえて矛盾に挑戦しているとしか思えない。
「何か一つの工夫や機能を導入したら消費電力を40%削減するなんていう、夢のような技術や設備はありません。竹中工務店さんの設計部、技術研究所の方々と何度も議論と実証実験を繰り返して、これで10%削減できる、これで3%削減できる、でもこれをやったらまた5%増えてしまった…そんなことをいくつも積み上げていってはチューニングして、それで初めて、理論上40%の消費電力削減という数値に着地させることができました。竹中工務店さんとのパートナーシップなくしては、実現できなかったことです」(髙木氏)
新しいロードサイド店舗の建築デザインと店づくりを成立させながらの消費電力の大幅な削減は、竹中工務店との地道な議論の積み重ねがなければ実現できなかった、と髙木氏は繰り返す。
竹中工務店にとっても、ユニクロとの仕事は他のプロジェクトとは全く違った。通常は一点物の建造物を受注して製作することがほとんどだが、ユニクロでは実際に営業している店舗で実験ができ、バ―ジョンアップしながら他の店舗に展開していく。連続性と再現性のある仕事なのだ。
エアカーテンの効果を最大限にする稼働方法
最も大きな課題は、ガラス張りにすることで自然採光を活かし照明にかかるエネルギーを削減する一方で、熱が逃げるのを防ぐこと。そこで自動ドアの上に採用したのはエアカーテンだ。
「ただエアカーテンを付けるだけでなく、『ユニクロ流山店』で煙を使った実証実験を行って、エアカーテンの効果を最大限にできる稼働方法を見つけ出しました。ポイントは、外側の気圧と店舗内の気圧のバランスです。それをコントロールすることではじめて、ドア解放時の外気流入と温度調節された室内空気の流出を抑制する効果が最大化するわけです」(竹中工務店 東京本店設計部アドバンスデザイングループ長の花岡郁哉氏、以下花岡氏)
店舗での実験によって、エアカーテンのメーカーでも知り得なかった詳細なデータを取ることができた。その検証結果は、今年、建築学会で竹中工務店から発表される予定だという。
人間の目に合わせて明るさセンサーを調整
店内照明を節電するために、天井に明るさセンサーを設置した。この調整も苦労した点だ。
「明るさセンサーも、数値上は十分な照度が取れていたとしても、やはり人間の目の感じ方とは異なるため、何度も実証実験を重ねました。明るいところから急に屋内に入ると一瞬暗く感じたりしますよね。我々にとって必要な明るさというのは、お客様が商品をきちんと見られることが大前提ですから、それを担保しながら省エネを実現するバランスを見極めるのが一番大事なのです。そして店内の照度設定をいくつか設けて、入ってくる日の光によって自動的に切り替わる、というようにしています」(髙木氏)
CO2濃度センサー、温度センサー、全熱交換機、ファンを連動
そして温度や明るさのほか、コロナ禍以降に重視されるようになったのが、換気である。CO2濃度センサーで混雑度合いを測る技術も一般化してきた。
「換気するだけでは、当然エネルギー効率は落ちてしまいます。今回はCO2濃度センサーを単独でなく、温度センサー、全熱交換機、ファンを連動させることで、お客様の多い時はしっかり換気して、少ない時は換気回数を減らすことで換気に使われるエネルギーを抑えています。さらに、混雑時でも必ずしもエアコンを回すのではなくて、外の空気が冷えている場合には、外気を自動的に中に取り入れるようになっています」(髙木氏)
店舗にユニクロの服を着させよう!
「KIDS BOX」と称するキッズコーナーの一角には、店舗の外壁に使用されている断熱材の見本を見られる部分がある。よく見ると、その断熱材には赤や黄色、緑といった色とりどりの繊維が混ざっている。回収されたユニクロの服を細かく裁断して断熱材に混ぜているのだ。ここでも、竹中工務店がリサイクル断熱材の建材としての性能評価、製品の形状現場での設置に至るまで大きく関与している。
「設計の面からサステナビリティを目指すうえで、建物の断熱性能を上げることは世界的な課題で、いま断熱材というもの自体が注目されています。今回のオリジナル断熱材は服の混率を色々変えて実験し、最終的には30%程度がユニクロの回収衣料になりました。外壁のほか、ユニクロコーヒーの椅子にも使われています」(花岡氏)
「『店舗にもユニクロの服を着させよう!』というアイディアも、竹中工務店さんとの議論から始まりました。服にどうやって次の命を与えられるかと考えると、リサイクル素材の断熱材を使うことは大きなチャンスなのではないかと考えています。」(髙木氏)
サステナビリティ設計による様々な省エネの工夫について、
次回「最新型ユニクロが前橋にやってきた! #3 ユニクロが花を販売する意味とは?」では、コロナ禍の中スタートした花の販売について、柳井正会長兼社長の思いを探る。