マーケティング活動とは別物「マーケティング・マネジメント」で激変時代を乗り切る!
なぜ今、マーケティング・マネジメントなのか?
「マーケティング・マネジメント」はデフレ期につくられたモデルなので、「いまさら」と思われるかもしれない。しかしマーケティングにインフレもデフレもない。
ポイントは複雑化している市場・顧客の理解を整理して計画立案に活用し店頭施策に反映させる方法論である。なおインフレとデフレでは市場状況や顧客の購買行動が変わるので、その違いを反映すればよい。
冒頭で「インフレに流れが変わった」と述べたが、状況は単純ではない。実質賃金は2024年3月まで24か月連続でマイナスだ。4月以降の賃上げが5%といわれておりこの数字が反映されると改善されるだろうが、あくまで「平均」の話である。賃金アップは個別企業や産業によって異なるので、所得の二極化はさらに進むだろう。
ある大手証券会社のレポートでは、主要企業の多くが直近の決算では増益という結果だが、価格転嫁が遅れた業界は業績が落ち込んでいるという。好況に沸く株式市場の恩恵を受けられる人は限られている。成長力を失った産業の厳しい現状は変わらない。購買力の格差が生まれる状況に対して、値上げの一方でPBなどの低価格品に力を入れ始める動きが出ている。
こういった大きな市場変動が起こる中で、細かい各論レベルになればそれぞれの動きは異なってくる。地域の盛衰もあれば、個人レベルの盛衰もある。そういった変化に対応するため、各企業は施策の取捨選択を迫られることになる。
マーケティング活動がモデル化されていなければ、どういう顧客層に、どういう施策を行って売上をつくってきたかが把握できない。そのため、顧客層がどう変わってきているから、この施策ではなく別の施策に切り替えることのよい影響と悪い影響が吟味もできない。取捨選択ができない、あるいはわかっていても実行に移せない。
表舞台から去った企業を見てみると、「マーケティング活動のモデル化の有無」が明暗の分かれめとなっている。議論の入口として判断材料が整理されていない、さらに結論を導くためのお作法がないので議して決せずのまま、時の流れにのまれてしまうのだ。それが失われた30年の根底にあると私は考えている。
かつてデフレに転換したことが引き金で、日本を代表する大手小売業に起こったことを振り返っていただきたい。
デフレが始まってからコロナまでは、市場のダイナミズムに大きな変化がなかったので、従来の延長線上の発想でもなんとかなった。現在はすでにダイナミズムが変わり始めており、過去に経験したことのない市場の流れが生まれつつある中では、これまで持っていなかった手法や、能力を獲得しないで生き残れると考えるのはいささか楽観的に思える。
ということで、次回以降は、このマーケティング・マネジメントのモデルと、それを活用するためのアプローチについて紹介していきたい。
StratModel・楢村文信(ならむら・ふみのぶ)
●1989年神戸大学卒業後、P&G日本法人に入社。ECR推進や取引制度改革に従事する一方、業界団体でB2BのためのIT標準化やカテゴリー・マネジメントを推進。P&G在職中に学習院経済研究所客員所員を務め産業構造や商慣行の研究に携わる。P&G退職後、野村総合研究所、テスコ日本法人を経て、エスエス製薬に入社し事業再生推進担当として営業改革、トレード・マーケティング、ショッパー・マーケティングなどを担当。2024年4月に退職し、現在はフリーランスのコンサルタント