カスハラ、モンスター客から従業員と店舗の評判も守る!具体的な方法とトーク例
<ポイント4> 可能な限り、記録化に努める
先述したように、迷惑行為を行ったお客がSNSなどで企業を批判した場合に反証できるよう、対応を打ち切ったり、警察対応した正当性を証明するロジックを構築しておくことが重要である。その際に、企業としての対応に問題がなかったと証明できるように、対応経緯を記録化しておくことが重要だ。
危機管理の観点から考えると、防犯カメラや録音に残して、対応の一部始終を記録しておくのが最も望ましい。
そのようなツールがない場合は、以下の手立てをとるといい。まず、複数名で対応して少しでも証人を増やしておく。次に、対応時のメモを徹底する。とくにカスハラ行為の内容をしっかりと書き留めることが肝要だ。また、暴言があった場合には、言われた言葉をそのままメモするといいだろう。それすら難しい場合は停止要請・警告をしてから、打ち切りなどの対応を行った時間を可能な限り記録しておくだけでもいい。
このようなメモでも、従業員をカスハラから守るうえでは有効なので、ぜひ従業員にも研修などを通じて、対応要領の徹底とともに、メモの重要性・要領を周知しておくことが重要である。
なお、記録を残すという観点からは、周囲のお客にもその様子を見ておいてもらい、企業側の対応に合理性があること、つまりお客の行為がカスハラに該当し、あまりに酷い状況であったと知らしめておくのが有効な場合がある。
さて、カスハラを行ったお客への対応策として厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(*2)を参照すると、「店頭で対応せず、応接室等の個室に招いて2人以上で対応する」と記載されているが、この際には下記5点の問題点があり、現実的ではない部分があるので注意して欲しい。
- 現実には事務所が広くない店舗が多いため、応接室で対応することは難しい
- 事務所などの応接室に入れるのは、話し合いをする意思表示ととられるので、かえって長時間の対応を余儀なくされ、逆効果となりかねない
- 2人以上での対応を原則とされても、店舗にはその人的余力はなく、2人以上が長時間拘束されると現場が回らないなど不利益が大きい
- 周囲のお客に状況を確認してもらい、企業の対応の合理性を担保しておくという対応ができない
- 事務所などに入れてしまうと、「ほかのお客さまのご迷惑になりますので、止めてください(お引き取りください)」といった打ち切り対応ができなくなってしまう
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」内、対応要領の部分は、記述不足や逆効果になりかねない記述も散見され、同資料を参考にして、カスハラへの対応要領を整備する企業は、工夫や補強が必要である。
カスハラ対策は現場対応テクニックのみでは十分ではない
カスハラに対して、企業および事業主として適切な対応をしていない場合、被害を受けた従業員から責任を追及される可能性がある。実際に、裁判ではカスハラに関して、企業の責任を認めた判例がある。そうした事例を正しく認識し、従業員に対する「安全配慮義務」として、対応要領の整備に留まらないカスハラ対策が必須であることを改めて確認すべきだ。
次回は、カスハラ対策として、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を使用していく上での留意点やカスハラ対策の全体像や実務上重要な点について、解説する。
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*1エス・ピー・ネットワーク著『 クレーム対応の「超」基本エッセンス 新訂第二版~カスタマーハラスメントに負けない!エキスパートが実践する鉄壁の5ヶ条~』(2022年・第一法規刊)より引用
*2厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf)