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DHC買収へ、オリックスの思惑と化粧品業界に与えるインパクトは?

11月11日、総合金融大手のオリックス(東京都/井上亮社長・グループCEO)が化粧品通販・健康食品のディーエイチシー(東京都/吉田嘉明会長兼社長:以下、DHC)を買収することを発表した。本稿では、今回の買収にかかわるDHC・オリックス双方の思惑を探るとともに、国内化粧品業界に与えるインパクトについて考えてみたい。

写真は都内で2015年4月撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)

一代で化粧品ビジネスを立ち上げた異才の創業者

 ご存知の読者も多いかもしれないが、DHCは、創業者の吉田嘉明氏が大学を顧客とする受託翻訳業として1972年に創業した。現在の社名も「大学(D)・翻訳(H)・センター(C)」の略称であることも有名な話だ。

 そんなDHCが、まったくの畑違いである化粧品製造販売業を立ち上げたのは1980年のこと。ある研究者との会話をきっかけにオリーブオイルの将来性に着目した吉田氏は、ハイグレードのオリーブオイルを求めてスペインを探し回り、ついに有機栽培農法のフロール・デ・アセイテ(バージンオイルの精華)にたどり着いたという。

 そうした開発されたのが、同オイルを主成分とする「DHCオリーブバージンオイル」をであり、現在に続く同社の看板商品となっている。多くのユーザーがオーガニック製品を愛用している現在とは違って、「自然派」などは眉唾物扱いされていた当時に、天然由来成分に目をつけた先見の明は驚くしかない。

 ただ、当時の化粧品の流通ルートは大手化粧品メーカーがおさえており、販路開拓は容易ではなかった。そこでDHCは、当時はマイナーだった通販に取り組むことになる。そのねらいは当たって商品は大ヒットとなり、DHCはその後、大手メーカーと伍する存在に成長していく。

 DHCは現在の規模にまで成長できたのは、関係者の努力もさることながら経営者の才覚によるところが大きい。自らの政治姿勢や問題発言で物議をかもすことも多い吉田氏だが、経営者としての「ひらめきと決断力」はさすがと言わざるをえない。

 一方、カリスマ創業者が一代で築き上げた企業グループでは後継者が往々にして育たない。しかもDHCは非上場企業。迅速な意思決定などは上場企業に勝るものの、ガバナンスやコンプライアンス対応はどうしても弱くなりがちだ。

 だからこそ、「ポスト吉田体制」は社内のみならず同業他社も注目するところだった。

どうなる? 買収後のDHC

 DHCを買収したオリックスにはどのような思惑があるのだろうか。

 オリックスのリリースによると、「長年の経験を有する大手化粧品・健康食品メーカーとして、長年の実績を有していること」「積極的なテレビでのPR活動や通信販売などを通じて、国内で高い知名度を有し、幅広い年齢層の方々に支持されていること」「直営店に加えて、コンビニエンスストアやドラッグストアなど通信販売以外の広範な販売チャネルを有していること」などを買収の理由に掲げている。

 確かに、化粧品におけるDHCの優位性はその通りだろう。問題は、DHCが培ってきた経営資源を生かし、さらなる成長につなげるだけの手腕がオリックスにあるかどうかという点だ。

 オリックスは医療機器販売(イノメディックス)や製薬業(同仁医薬化工)に出資しているが、事業内容を見るかぎりではDHCのビジネスとのシナジーはあまり期待できなそうだ。しかも、化粧品事業のマーケティング手法や流通チャネルとの商慣行(棚の確保・リベート制度・返品契約など)は独特であり、敷居は高い。

 だが、オリックスは過去におけるさまざま出資や買収を通じ、企業価値を向上させるノウハウには長けているはずだ。今回の買収手続きが落ち着いたのち、2023年3月には吉田会長兼社長も完全に経営から退き、オリックスサイドが新体制を敷くことになる。

 今後の読みとしては、オリックス主導のもとDHCはオーナー企業体質から経営体制を刷新し、企業価値を向上させたのちに、さらなる事業承継を果たす(同業他社との合併など)可能性も捨てきれない。

 「本件が当社の2023年3月期連結業績に与える影響は軽微です。」 

 プレスリリースでコメントされているように、売上高2兆5000億円超、営業利益3000億円超(ともに2022年3月期実績)という高い収益力を誇り、総資産は14兆円にもおよぶ。DHCの買収額は約3000億円と複数のメディアが報じているが、オリックスからすれ数あるM&Aの1つに過ぎないのかもしれない。

 今回の発表を受けてのマーケットの反応はまずまずだった。発表前のオリックス株価の10日終値は2066円、翌日は寄り付きから3%超の上昇を見せた。その後は11月末~12月初旬に2200円台となるなど、堅調に推移している。少なくとも投資家は今のところ好感しているようだ。

 他方、化粧品業界に与えるインパクトは、少なくとも「軽微」ではない。資生堂の国内売売上高が約2700億円、花王が約2300億円、コーセーが約1700億円といった規模感の中で、DHCの900億円の存在は大きい。

 とくに中低価格のスキンケアカテゴリーに関しては、DHCの商品は競合他社に引けを取らず、とくに長年の歴史を持つEC領域で大きな強みを発揮している。既存チャネルに遠慮して最近までECを控えてきた大手とは勢いが異なる。

 そんなDHCに対して、競合他社が関心を抱いたとしてもおかしくはない、むしろ自然だ。オリックスは当面DHCを手放す気はなさそうだが、総合金融業であるだけに中長期的にはわからない。この先も引き続き動向を注視したいところだ。

 

※記事を修正しました。「吉田嘉明」氏の名前が「田嘉明」氏となっておりました。大変失礼いたしました。