X-girlとユニクロのSHEIN訴訟 資本主義の正当性を問う闘いの始まりか
無印、The Body Shop、関サバに学ぶROIC経営
一方、日本は欧州とは異なる二面性を示している。
日本社会には「面倒なことは触らず」という文化的傾向がある。模倣品問題に対しても、長らく「泣き寝入り」や「黙認」が続いてきた。アダストリアやオンワードなどの大手も、模倣被害を受けながら積極的な訴訟には踏み込まなかった。
しかしユニクロとX-girlの訴訟は、この文化的慣性を破った。知財防衛を「前例」として示し、他社も追随する心理的ハードルを下げた。これは日本のアパレル業界における「文化的変化」の兆しである。面倒を避ける文化から、国際ルールに沿った防衛へとシフトする可能性が開かれた。
さらに、この動きは消費者教育にもつながる。訴訟が報道されることで、消費者は「安いけど偽物かもしれない」という認識を持ちやすくなる。ブランド価値を守るための訴訟が「正当な防衛」として理解されれば、国内ブランドの信頼性が再評価されるだろう。
反論者は「消費者は安さを選ぶ」と言うが、それは短期的な需要を都合よく切り取っただけの話だ。長期の市場で勝つのは「広告費」ではなく「規律化された信頼」であり、その証拠は、日本の「無印良品」、英国の「The Body Shop」、そして大分の「関サバ」が示している。
無印良品は「印にお金を払うぐらいなら、品物のよさに払おう」という思想を徹底し、広告を削る代わりに素材選定や原価設計の規律を資産化した。The Body Shopは高価な化粧品の宣伝を切り捨て、フェアトレード、人権擁護、動物実験なしを供給網に埋め込み、口コミで世界に広がった。関サバは漁法や産地の厳格な規律を守り抜き、品質保証を徹底することで口コミから全国に広がり、やがて「ブランド魚」として確固たる地位を築いた。
これらの事例は、ブランドの裏側に必ず「骨太な価値」が存在することを教えてくれる。広告や価格競争ではなく、規律と信頼を積み上げることこそが企業資産であり、長期的な競争優位を生む。これはまさに「ROIC(投下資本利益率)経営」の学びである。
資本をどこに投じるか、どの規律を守るか、どの信頼を積み上げるか。これらが長期的な利益率を決定する。模倣直売モデルが短期的に消費者を惹きつけても、骨太な価値を持たない企業はROICを維持できず、資本市場から淘汰される。
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結局のところ、最後に勝つのは「国際ルールに沿ったアパレル企業」だけである。模倣経済は資本主義の根幹である「7:3の論理」を破壊し、短期的には消費者を魅了する。しかし、長期的には制度的市場に受け入れられず、資本市場から淘汰される運命にある。ロンドン上場の停滞、パリ百貨店での抗議、東京での知財訴訟――これらはすべて、模倣経済が制度的に正当化できないことを示している。
資本主義の7:3モデルは、単なる利益構造ではなく、文化的・制度的な正統性の基盤である。ブランド価値を守り、国際ルールに従い、持続可能性を担保する企業だけが、最終的に市場で生き残る。資本主義の未来は、安さや模倣に支配されるのではなく、国際ルールと骨太な価値に支えられる企業が主導する。ユニクロとX-girlの訴訟は、その方向性を示す歴史的な転換点であり、資本主義の正統性を守る闘いの始まりなのだ。
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