X-girlとユニクロのSHEIN訴訟 資本主義の正当性を問う闘いの始まりか
2024年から25年にかけて、日本のアパレル業界において象徴的な事件が起きた。「ユニクロ」を擁するファーストリテイリングと、「X-girl」「XLARGE」などを展開するビーズインターナショナルが、中国発の超低価格SPAであるSHEINを商標権侵害で訴えたのである。ユニクロは「ラウンドミニショルダーバッグ」の模倣販売に対して約1億6000万円の損害賠償を請求し、ビーズインターナショナルはブランドロゴの模倣に対して約1億円超を求めた。これは単なる知財防衛ではなく、資本主義の根幹を揺るがす「模倣経済」への挑戦である。

欧州で鮮明化する、理念と現場の乖離
資本主義におけるアパレルモデルは「7:3の論理」に支えられてきた。フィジカル原価は全体の30%に過ぎず、残り70%はブランド、マーケティング、文化的価値が生み出す利益──ラグジュアリーもSPAも、この構造の上に成り立ってきた。
しかしSHEINはこの論理を破壊した。原価に近い価格で商品を販売し、ブランド投資を不要化し、模倣によって付加価値を空洞化させる。ユニクロとX-girlの訴訟は、この「資本主義の根幹を守る戦い」として位置づけられるべきだと私は考えている。
ここで注目すべきは欧州の態度である。フランスはパリ協定の発祥地であり、SDGsの理念を世界に広めた国だ。ドイツには「グリーンパーティ」があり、環境保護を政治の中心に据えている。
アングロサクソンには「Noblesse Oblige(ノブレス・オブリージュ)」、持てる者が持たざる者に施すという文化的規範が根底にある。理念的には、欧州こそ持続可能性と倫理を体現する地域であるはずだ。
しかし現実は逆だ。パリの老舗百貨店「BHVマレ」は2025年11月、世界初のSHEIN常設店舗を迎え入れた。数万人が殺到し、安価な商品に熱狂した一方で、館内ブランドの一部は「同列に扱われたくない」と撤退し、抗議デモも起きた。ロンドン証券取引所ではSHEINの上場が検討され続けている。持続可能性と倫理からなる「理念」の発祥地とも言える欧州が、模倣品を放置し、むしろ優遇する現実は、「理念国家の自己矛盾」を露呈している。
これは資本市場の論理が「倫理的補助線」を凌駕した結果である。投資家は利益を優先し、消費者は安さを選び、政治は雇用と支持を失うリスクから強硬な規制に踏み切れない。理念と現場の乖離が、欧州の二面性を鮮明にしている。
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