「従業員1人1台」の時代へ モバイル端末活用は現場をどう変えるか?
モバイルデバイスの現場での活用域が拡大
現場での業務指示書や発注台帳は、「紙ベース」のものから、バーコードを活用する時代を経て、PDA(PersonalDigital Assistant:個人向け情報端末)、GOT(GraphicalOrder Terminal:タッチパネル型の情報操作端末)へと移行し、現在では多くの小売企業がこれらを店舗で活用している。

その間、通信手段も配送メール便、FAX、メール添付などから、高速インターネットの普及によりデータ通信が主流となり、通信スピードやコストが劇的に改善された。
さらに2010年以降、スマートフォンとモバイルブロードバンド(高速データ通信に準じる通信速度を実現する無線通信サービス)の普及に伴う通信速度の向上や通信コストの大幅な低下により、モバイルデバイスの現場活用が増加している。しかし、「補充・発注」「棚卸し」「返品・振り替え」「棚札の発行」など、20年以上前からの機能がいまだ主流だ。
一方で、一般社会におけるスマートフォンの普及は「知の共有方法」を変化させた。具体的には、紙や集合教育から動画やSNSなどの活用へと移行し、リアルタイムでの情報共有が可能になった。そして現在、生成AIの本格的活用の時代に突入している。しかしながら、業務端末の実装機能の進化は少なく、現場の労働生産性向上には十分生かされていない。

そこで今回は、ブロードバンドインターネットの時代におけるスマートフォン(今後はウォッチ、グラス、イヤホンなどのウエアラブル端末へ移行していく)を、いかに活用すべきかについて考察する。また、可能な限りコストを抑えながら自社の業務フローに適応させていく方法についても説明する。
ウォルマートでの活用事例と効果
近年、アメリカの小売業界では、店舗運営の効率化とカスタマーサービス向上を目的として、従業員にスマートフォンやタブレットを配布する取り組みが急速に進んでいる。とくに業界最大手のウォルマート(Walmart)は、21年から「Me@Walmart」アプリを導入し、全米の店舗従業員74万人以上にサムスン製スマートフォンを無償提供するプログラムを展開している。
主な用途と活用事例は次のとおりだ。
①在庫管理とストック確認:商品の在庫数をリアルタイムで確認し、補充のタイミングを正確に把握
②バックルームの在庫状況確認:店頭に立ったままバックルームの在庫状況を確認できる
③商品入荷予定や配送状況のトラッキング:顧客への迅速な対応を実現
④カスタマーサービス対応:商品詳細情報や在庫状況をその場で確認し、顧客の質問に即対応
⑤他店舗の在庫確認や取り寄せ手配:スムーズに実施
⑥モバイルPOS機能:レジ待ち緩和に貢献
⑦業務コミュニケーション:店舗スタッフ間のリアルタイムな情報共有やタスク管理の効率化
⑧トレーニング動画や業務マニュアルへのアクセス:学習効率の向上
これらの取り組みにより、業務効率化が進むだけでなく、顧客サービスの質も向上している。また、インターネット接続と対応するアプリやブラウザがあれば、さらに多くの活用が可能となっている。
モバイルデバイスの進化や生成AIの活用により、店舗業務支援端末の導入コストが大幅に低下しており、今後もその活用範囲は拡大していくと考えられる。そのほかにもBOPIS(Buy Online Pick In Store=ECで購入した商品を店舗で受け取ること)にも活用されている(ウォルマートのピックアップ用端末は堅牢性重視の観点で別端末を使用)。
ウォルマートのように、スマートフォンを店舗業務用の端末として活用するメリットをまとめると、次の3点が挙げられる。
①業務効率の向上:従来は複数の端末や書類で管理していた業務を1台のデバイスで完結できるようになり、作業時間が大幅に短縮された
②顧客満足度の向上:商品情報へのアクセスが容易になり、より正確で迅速な顧客対応が可能になった
③従業員満足度の向上:直感的な操作性と情報へのアクセスのしやすさにより、とくに若い世代の従業員から高い評価を得ている
一方で課題としては、
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