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チェーンストア経営における店長の役割

一流店長の共通点とは

 リーダーシップとマネジメントの違いについて、ピーター・ドラッガーは「マネジメントは物事を正しく進めること、リーダーシップは正しいことを行うこと」と言い、ジョン・コッターは「リーダーシップは変化に対応するもの。マネジメントは複雑なものに対応するもの」と定義する。つまり、リーダーシップは進むべきビジョンを示し、マネジメントはそのビジョンを実現するための施策を管理することである。

店舗は企業と顧客の唯一の接点。店長の采配によって、店舗の雰囲気は大きく変わる

 そして、ホームセンター(HC)の店長ほど、リーダーシップとマネジメントの両方を求められる仕事はほかにあまりないだろう。

 数百人の従業員を束ねて、年間何万人もの買物客を満足させ、年商何十億円と売り上げる。その傍ら、本部やエリアマネージャーからの指示をこなし、日々の業務だけでなく、将来の成長に向けた施策も打つ。

 若くして何十人と部下を抱える仕事は全産業を見てもほとんどないし、チェーンストア経営による本部と店舗の機能が分かれているのも小売業界独特のビジネスモデルである。その小売業界の中でも、HCは飛び抜けて売場面積が広く、取扱品目数も多い。一般消費者だけでなく、建築職人もターゲットとした資材や工具など幅広い知識も求められる。

 その中で、着任すると従業員の士気が上がり、お客の心をつかみ取り、たちまち繁盛店へと押し上げる「一流店長」がいる。一流店長にはどのような共通点があるのだろうか。

店長の力を引き出す本部の役割

 まず、店長に求められる資質の話をする前に、店長が個々人の能力を最大限発揮するためにはチェーンストア経営に基づくオペレーションシステムを構築する必要がある。

 チェーンストア経営システムコンサルタントの桜井多恵子氏は「標準化こそがチェーンストア経営の要」であると強調する。店舗の標準化を行うことで、作業は単純化され、現場従業員の俗人的な知識に頼る必要もなくなる。

 店舗は「顧客と企業の唯一の接点」であるにもかかわらず、さまざまな業務が集中しがちである。店舗に任せられる業務は際限なくあるが、本部でもできる業務は可能な限り本部で巻き取り、「店舗にしかできない業務」に集中させる必要がある。

 本来、店舗でしかできない業務を洗い出せば、商品補充、チェックアウト、掃除くらいしか残らないはずである。それ以外の業務を本部に移管し、すべての人時を接客に回すことができれば、生産性、顧客満足度ともに大幅に改善されるはずである。

 今まさにこの改革を進めているのが島忠(埼玉県)だ。島忠は、ニトリホールディングス(北海道)との経営統合後、再成長に向けた土壌をつくり上げるフェーズにある。

 島忠の売上一番店「ホームズ新山下店」(神奈川県横浜市の岩渕厚志ホームセンター店長は、統合から3年が経過した現在の状況を「5年後、10年後の土台をつくっている最中」とした上で、「ニトリのグループに入ってから、別の会社に来たように思っている」と統合後の激変を振り返る。

 個店主義で店舗の裁量が大きかった統合前の島忠に対して、チェーンストア理論を徹底的に実践するニトリは「店舗で起こることは本部の責任」とする「本部巻き取り型」だ。品揃えや売場を本部が主導し、店舗の裁量は小さくなっている。

 また、作業割当の考え方も変わった。統合前の島忠では人に作業を割り当てていた一方、チェーンストア理論のもとでローコストオペレーションを志向するニトリでは、作業に人を割り当てる。実際、統合からの3年で新山下店HC部門の人時生産性は人数ベースで約2割上昇し、店舗の業績も伸ばした。

 チェーンストア経営は店舗が本来持つ能力を底上げし、店長がリーダーシップを発揮するための前提条件だといえる。

 

 

エース店長による従業員の育て方

 その上で、一流の店長はどのようなことに取り組んでいるのだろうか。

 カインズ(埼玉県)の売上上位の繁盛店「カインズ青梅インター店」(東京都青梅市)の嵯峨紀幸店長がとくに力を入れているのは人材育成だ。着任して最初の1年は、売場の整理整頓(せいとん)などの基本的な部分の徹底に努め、従業員の考えや意識を変えていった。

 人材育成の柱になっているのが、ラインマネージャーがほぼ全員出勤する日曜日に開催している、嵯峨店長独自のブレインストーミング型ワークショップだ。ワークショップは事前にテーマを決めて、参加者が自由にディスカッションすることで、マネージャーの思考力を向上させることをねらう。

 売場づくりは極力支持を出さず、アドバイスも最小限にとどめて、担当者に任せる。このように「商売意識」を醸成していくことで、従業員自らが発案した売場提案やイベントも増えていった。

 コーナン商事(大阪府)は店長職に「店長」「シニア店長」「マイスター店長」と3つのクラスを設けている。約10人しかいない、店長の見本となる「マイスター店長」の1人、山田朗弘店長は「ホームセンターコーナン高槻城西店」(大阪府高槻市)を繁盛店へと押し上げた。

 山田店長が着任時、店としての状態は決してよくなかった。清掃が行き届いておらず、欠品が目立ち、雰囲気も暗かった。そこで山田店長は着任後、とくに従業員の教育に力を入れた。能力の差が出にくい作業と出やすい作業の2つに分け、あいさつや単純作業など能力の差が出にくい作業を徹底して行うようにしていった。

 その結果、半年ほどで変化は訪れ、「店がきれいになった」と顧客から声を掛けられるようになり、店の雰囲気も一気に変わっていった。その後、業績も堅調に推移しているという。

 コメリ(新潟県)の上中越エリアの旗艦店舗「コメリパワー長岡店」の岩波智晴店長は着任して2年半、従業員のレベルアップに注力してきた。デジタル活用やバックヤードの整理整頓など、職場環境の整備をすると同時に、「営業時間中は売場に出ているのが基本」という方針を徹底する。

 適切な人員配置にも取り組み、単作業を担うスタッフや専門知識を持ったアドバイザーが主力になる店舗づくりが実現した。

店長の采配で業績も変わる

 DCM(東京都)の中型店舗「DCM阿久比店」を任されているのは、女性店長の坂口祥子店長だ。店長歴1年目の坂口氏は従業員に自ら考えて、気づきを見つけてもらう方法で、モチベーションアップにつなげる。その結果、お客さま目線の売場づくりも進めていき、社内の「SDGs売場コンテスト」や「販売コンテスト」でたびたび受賞。売上は対前期比2ケタ増とお客からの支持も集めている。

 アークランズ(新潟県)の都市型店で繁盛店の「スーパービバホーム豊洲店」の三浦慎司店長は顧客目線、従業員目線、会社目線で物事を判断する。豊洲店に着任すると、課題だったカード会員の獲得や欠品対策などに取り組む。さらに単品販売で全店ナンバーワンをめざし、従業員と一丸になって売場づくりを盛り上げる。

 綿半ホールディングス(長野県)の「綿半スーパーセンター富士河口湖店」は食品売場を導入したスーパーセンター業態。保谷英寿店長が着任した当時は赤字だった。生鮮食品の粗利コントロールやプライベートブランド商品を目立させる売場づくりを地道に続けていった結果、黒字化を達成。従業員のモチベーションもアップさせた。

 本特集では、顧客だけでなく従業員からも慕われ、店舗を立て直し、繁盛店へと押し上げた、7人の店長にインタビューした。一流店長は実際どのように現場を切り盛りしているのか。生の声をお届けする。

 

本項は以上です。続きをご覧いただく場合、ダイヤモンド・ホームセンター10月15日号をご購読ください。