再編ラッシュの小売業界、株式市場が「示唆」する次の展開とは

Pocket

年明け以降、業態問わず再編ラッシュ

 年明け以降、さまざまなビッグニュースが報道されています。

 少し思い浮かべてみただけでも、以下のような出来事が起こりました。

  1. ツルハホールディングス(以下、ツルハHD):
     ・イオンはツルハHD持分の3%相当を野村證券に売却、その後2024年3月13日を予定日にアクティビスト(オアシス)からツルハHD株13.58%相当を一株15,500円で買い受ける。その後、必要なクリアランス・許認可等を取得したことを条件に野村證券に売却した相当分7.3%を買い戻し、通算27.2%を保有することとする
    ・ツルハHD及びウエルシアホールディングスHD(以下、ウエルシアHD)は、ツルハHDを親会社とし、ウエルシアHDを完全子会社とする株式交換の方法による経営統合を行う
    ・その後、イオンはツルハHD株式に係る議決権割合が過半数以上51%未満となる範囲で追加取得し、ツルハHDを連結子会社とする
  2. ローソン:KDDIがローソンに対してTOBを実施、本件後ローソンは三菱商事の連結子会社から外れ、KDDIと三菱商事の共同運営体制に移行する
  3. KFC:三菱商事はKFCの株式を手放す
  4. セブン&アイ・ホールディングス:大都市圏以外のイトーヨーカ堂店舗を有力企業に譲渡、人員削減実施

 読者の皆様に、サプライズはありましたか。

 「業績が良くもベストオーナーを引き連れてくる」

 この中で筆者がまず興味を覚えたのはローソンの件です。

 三菱商事は、ローソンの業績が改善してきたタイミングを狙って、ローソン株を売るのでもなく、またコミットを増すのでもなく、ローソンのベストオーナー候補を引き連れて2社で共同運営の体制に持ち込むという判断を下しました。

 業績が良くない子会社や事業をリストラしたり譲渡したり、ということは従来から頻繁に行われてきました。しかしこの事例は、子会社の業績が好調なときであっても、中長期的な持続的成長のためにふさわしいパートナーを引き連れてその子会社を次のステージに移行させるという、興味深い経営判断です(一方、なぜローソン株を売却しなかったのか、ぜひ理由を聞きたいところです)。

 「ベストオーナー探し」は株式市場の基本的発想であり、近年株主たちは、この観点に基づいて上場企業に対して監視の目を光らせています。イオンは政策保有株式、持分法適用会社、親子上場が多岐にかかえていますので折に触れてツルハHDのような事案があがるかもしれません。またセブン&アイ・ホールディングスによるイトーヨーカ堂の件については、現在は「業績改善、さもなければ切り出し」という圧力が株式市場から一定程度かかっているように思いますが、イトーヨーカ堂の業績が回復したあとで改めてベストオーナーを探すことが要請されるようになるのではないでしょうか。

1 2

記事執筆者

都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。

米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態