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オーケー、ロピアの主戦場にヤオコー、ベルクも!増殖ディスカウントSMの勝ち方とは

ディスカウントSM1280

節約志向の高まり背景に新型ディスカウントが続々

 「業務スーパー」「トライアル」「オーケー」「ロピア」──。ここ数年の食品小売業界では、「安さ」を強みとするチェーンが常に話題の中心にいる。

 食品小売をめぐる環境は大きく変化している。生活様式を一変させたコロナ禍がようやく一段落したかと思えば、2022年後半から世界情勢の混乱に伴う「値上げラッシュ」が到来。23年11月に入り、値上げはピークアウトの気配を見せているものの、23年の食品値上げはすでに3万品目を超えている。

 水道光熱費をはじめコスト上昇の影響は依然大きいものの、価格転嫁が進んだことにより、食品小売の足元業績はおおむね好調に推移している。直近発表された中間決算では、経営トップの多くが「節約志向が高まっているわけではない」と発言しているものの、来店頻度を含めた客数は減少傾向にある。消費者が消費に対して慎重になっている可能性は高い。

 23年春に一部企業で賃上げの動きが見られるなど明るいニュースもあったが、社会保障負担の増加などを背景に、家計の収入から税金や社会保険料を差し引いた「可処分所得」は伸び悩んでいる。足元ではその傾向がさらに強まっており、総務省が23年10月に発表した家計調査(23年8月分)では、サラリーマンなど勤労者の2人以上世帯の実収入は、物価の影響を除いた実質ベースで前年同月から6.9%減となり、11カ月連続で減少。可処分所得も同5.4%の実質減と、同じく11カ月連続で減少している。

 そうしたなかで高まっているのが、「ディスカウント」に対するニーズだ。食品小売の世界では「消費の二極化」が指摘されるようになって久しいが、足元では、同じ消費者でもオケージョンやモノによって高いものと安いものを買い分ける、「賢い消費行動」が定着しつつある。そうした大きなトレンドの変化を商機ととらえ、食品小売ではここ数年、ディスカウント型の新フォーマットを立ち上げる動きが広がっている。

ここ数年、SM企業によるディスカウントフォーマットに出店が相次いでいる

 とくに動きが早かったのがイオン(千葉県/吉田昭夫社長)で、コロナ禍真っただ中の20年6月に新法人を立ち上げ、未来型ディスカウントストア(DS)と位置づける「@パレッテ!」を同年末に出店。現在までに8店舗を出店している。

 食品スーパー(SM)では、ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)がいち早くディスカウントフォーマットの展開に乗り出しており、21年8月にディスカウントスーパー「フーコット飯能店」(埼玉県飯能市)を出店。同じく埼玉県を地盤とするマミーマート(岩崎裕文社長)も22年5月にディスカウントフォーマットの「マミープラス」の展開をスタート。既存店を改装するかたちで店数を増やしている。

 23年に入ってからもSM企業によるディスカウントフォーマットが次々と登場しており、23年7月にベルク(埼玉県/原島一誠社長)が群馬県高崎市のドミナント内の1店舗をディスカウント型の「クルベ」に改装し、ユニークな売場演出と大胆な価格訴求で業界人の注目を集めた。

 ローカルでもディスカウント参入の動きが見られ、23年8月には、九州・中四国に店舗展開するサンリブ(福岡県/菊池毅社長)が新フォーマット「リブホール」の展開をスタートすることを発表。既存店からの転換を急ピッチで進め、発表から約3カ月で早くも14店舗を改装オープンしている(23年10月末時点)。さらに23年10月には、青森を地盤とするユニバース(三浦建彦社長)がディスカウントフォーマットの「パワーズU」を18年ぶりに出店した。食品小売によるディスカウントフォーマット開発は過熱状態にあると言っていい。

「ディスカウント」という新たなビジネスモデル

 これまでも、食品小売業界では“安売り業態”に挑戦する動きがたびたび見られている。だが、それらの多くは、不採算店舗や減価償却が済んだ老朽化店舗を改装で転換したり、定年後に再雇用した従業員を配置して人件費コストを抑えるなどの工夫により運営されていた。

 そうしたかつてのディスカウントフォーマットについて、日本リテイリングセンター取締役リサーチディレクターの渥美六雄氏は「(かつての食品小売のディスカウントは)一過性のローコスト施策にすぎず、将来的な成長や拡大にはつながりづらい」と指摘する。実際に、前述したディスカウントフォーマットのほとんどは長続きすることはなく、現在は閉鎖、あるいは店舗自体は残っているものの規模は縮小、出店は凍結状態であるケースが多い。

 では、ディスカウントフォーマットを成功させるには何が必要なのか。

 渥美氏は、日本のディスカウントフォーマットのほとんどは「ディスカウント」とはいえず、より踏み込んだ安さが必要である、と説く。仕入れ先からの協力や支援などではなく、生産技術の開発やサプライチェーンの変革といった、新しい仕組みづくりによって初めて実現する競合とは比較にならない「破格の安さ」こそ、本当の「ディスカウント」であるというのだ。

 ディスカウントを実現するための組織づくりも重要だ。現実問題として、「安さ」の打ち出しを行っていくには、メーカーの協力も不可欠である。ある食品小売の経営幹部は、「ディスカウントフォーマットを新規で始めるのであれば、商品部を必ず分ける必要がある。できれば運営を別法人にすべきだ」と指摘する。

 「ある商品を店舗で販売するとして、既存のSMフォーマットでは売価128円、新しいディスカウントフォーマットでは98円、といったような取り引きではメーカーの協力は得られない」(前出の経営幹部)

 実際に、有力チェーンと呼ばれるSM企業は、新会社や新しい商品部を立ち上げ、ディスカウントに臨んでいる。たとえば、ヤオコーはディスカウントフォーマット展開に先立ち、新会社フーコット(埼玉県/新井紀明社長)を設立し、フーコット専用のプロセスセンターまで開設している。フーコットの店舗を見ても、ヤオコーPBの扱いはなく、総菜もフーコット独自の商品を販売するなど、既存の「ヤオコー」とはまったく異なる新たなビジネスモデルに挑戦していることがわかる。

どの商品で「安さ」を打ち出すのか

 もう1つ重要なのが、どの商品で安さを訴求するかという点だ。

 「ディスカウントにはインテリジェンスが必要」──そう話すのは、ビッグ・エー(東京都)の三浦弘社長だ。

 食品小売では、天候や気温などによって売れる商品が日々変化する。お客は今の時期、どんな商品を競合店と比較して、来店・購入を決めているのか。デスティネーション(来店目的)となる商品を見極め、競合店の価格をチェックし、自店の価格を設定する必要がある。冒頭で述べたように、コロナ禍以降はまとめ買いが浸透し、来店頻度が下がっている。来店頻度が少ないなかで、目的の商品が高いとなれば、お客に選ばれない店となってしまう。

 当然、値下げのための原資は限られており、すべての商品を安く提供するわけにはいかない。お客が求めていない商品で価格訴求をしていては、店舗の粗利益率を下げてしまいかねない。お客が求めている商品に原資を適切に投下して、「安い」というイメージを打ち出す──。そうしたプライシングの巧拙がディスカウント成功のカギを握っていると三浦社長は話す。

 国内には多くの食品小売が存在するが、「安さ」を経営の理念や方針として大きく掲げている企業は意外と少ない。世界情勢は混乱を極め、物価高も解消される兆しが見えないなか、「安さ」を求めるニーズはより大きくなりつつある。本特集では、話題の新ディスカウントフォーマットに加えて、「安さ」を強みとする有力チェーンの店舗を取材・調査している。低価格で支持されるあのチェーンは、どのようにしてその低価格を実現しているのか。各店の売場づくりを見れば、そのヒントが浮かび上がってくるはずだ。

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