大谷将平とセブン-イレブンに共通することとは 個店経営と“トレード・オン”の関係
「二刀流」というトレード・オン
国民の50%が観たというワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に、個店経営に関する重要なヒントがあった。WBCのスターといえば、言わずと知れた大谷翔平選手だ。大谷選手がスターであるのは、「二刀流」だからである。
この二刀流とは、「トレード・オン」の生きた実例でもある。二刀流とは、投打の両方に秀でるということだからである。学生野球では、4番が投手であるのはごく当たり前だが、いよいよドラフトでプロ野球に入るというときは、どれほど優れた選手であっても、ほぼ全員が「投」を採るか「打」を採るかという選択を迫られる。選手のほとんどが「投」か「打」のどちらかを「オフ(捨てる)」にすることを選ばされる。「投」を捨てる代わりに「打」に専念する。これが「トレード・オフ」の原理である。
だがその場合でも、トレード・オンは大いに有り得る。「投」をオフし、「打」のみを選んだとしても、打点・打率・本塁打で三冠を獲った選手は、優れたプロだと言われる。このうち1つでも達成すれば名選手と言われるだから、三冠王もまたタイトルを重ねたトレード・オンといえる。
個店経営も、経営である以上、そのフォーマットの必須条件はトレード・オン、それも幾重ものトレード・オンに基づいて形成されることが望ましい。むしろ、複数の要因が「オン」されて成立するものだけが、フォーマットの名に値する。
トレード・オンとは、たとえば高校生がプロになる際に選択するように、ほかの多くが「スペシャライズ(専門化)」するためという名目でトレード・オフする要因を、あえて複数引き受けることである。言い換えれば、「人が避ける難関を自分だけが越える」ということでもある。「二刀流」も「三冠王」も、その要点は「強みを重ね、ほかをはるかに凌ぐ抜群の競争力を手に入れる」ということだ。トレード・オンとは、複数の「競争力の要因」を重ね、高めることである。だから、トレード・オンを重ねた経営フォーマットは、打たれ強く、競争力に秀でたフォーマットになる。
「トレード・オン」型のフォーマットとは
かつてチェーン展開初期に流布され大いに支持された、トレード・オンとはまったく逆の考え方がある。それは「売上を計画どおりに上げることは(他店との競争.店舗面積、立地、人材不足など複数の条件があって)わが社の努力だけでは難しい。だがコストダウンは、その気さえあれば、わが社の努力だけで確実に実行することができる。