310年の伝統と革新の酒造りを貫く、大関・長部訓子社長に聞く
「楽しい暮らし」に役立つ、日本酒本来のおいしさを伝える
──21年のマーケティング戦略についてお聞かせください。
長部 基本的に前年までの施策を踏襲するかたちですが、「大関」という企業ブランディングにいっそう、注力したいと考えています。
緊急事態宣言は解除されましたが外食向け日本酒消費の市場回復にはもう少し時間がかかると予想されますし、元通りの形にはもどらないでしょう。21年は当社の創醸310周年の節目の年であり、外飲みでも家飲みでも「大関」のファンを増やす、そういった当たり前だが、地道な目線での活動をめざしたい。
自社の歴史観はというと、祖父である10代目長部文治郎、曾祖父である9代目長部文治郎の記憶を持つ私にとって310年の内、100年ほどは脳裏にあって身近なものです。酒蔵と家屋の敷地が隣り合わせだったため、職人と祖父たちのやり取りも幼少時に見聞きしていました。
今回立ち上げた「創家大坂屋」というブランド名の由来は、長部家の始祖である初代「大坂屋」という屋号からです。米や肥料を商う問屋だったところから酒造りの免許である「酒造株」を譲り受けて新事業を始めたわけですが、これは完全な先行投資であり、かなりリスクの高い事業だったと思います。
その後もカップ容器酒や箱詰め酒の発売、当社の発酵技術や酒かすなどを使用した化粧品の発売、研究所の設立や海外進出など、当社には業界の先陣を切って新しいことにチャレンジしていく精神が備わっています。「創家大坂屋」の名前でブランドを立ち上げたのも、創醸時から続くこの精神を受け継いでいきたいというメッセージを込めています。
──長い歴史を持つ大関ですが、今後、どんな成長戦略を描いていますか?
長部 当社は「ワンカップ大関」や箱詰め酒など時代に合わせた商品開発を強みとして歩んできましたが、その強みがコロナ禍をきっかけに一変しています。私は父より「成功は復讐するもの」と言われていますが、まさに今がその時ではないかと。
それまでの成功体験により緩みが出ていたともいえる状況であり、もう一度創醸時から続くチャレンジ精神を呼び起こし、「品質」と「量」の両方を担保しつつ、乗り越えていかなければなりません。
「ワンカップ大関」にしても発売から57年目を迎え、世代交代や市場開拓も必要です。いつでも開けたてでフレッシュな味わいを手軽に楽しめる機能的な日本酒のパイオニア商品として、次の世代にもつなげていきたいです。
──最後に、流通に向けてどんな施策を考えているかを教えてください。
長部 小売業の皆さまと協力し、食とのクロスMDやデジタルサイネージの活用など、売場と連動した販促を強化し、カテゴリー全体の活性化を実現しながら、「大関」の価値を高めていきたいですね。デジタル・トランスフォーメーション(DX)などの言葉がよく飛び交いますが商いの原理原則はシンプルなはず。「日本酒のおいしさを伝えたい」「お客さまに喜んでいただくモノづくり」という基本を大切に、90年後の創醸400年に向け、「楽しい暮らしの大関」を提案していきたいと考えています。
大関会社概要
創醸 | 1711年 |
資本金 | 1億円 |
代表者 | 長部訓子社長 |
事業内容 | 清酒などのアルコール飲料、食品類の製造販売、化成品開発販売 他 |