岸田政権「新しい資本主義」下で、イオンの企業評価が高まる理由とは

2021/11/08 05:55
    椎名則夫(アナリスト)
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    岸田政権が誕生し、「新しい資本主義」が提唱されている。株式会社について言えば、行き過ぎた「株主重視」があればこれを変更することが主眼となる模様だ。さらに、株主以外のステークホルダーにもたらす価値を加味した新しい企業評価の基準を考案することも検討されているという。今回、この「新しい資本主義」によって、企業評価の基準が変わる可能性と、変わるとすればどのように変わるのかについて、「新しい資本主義時代の雛形」となり得るイオンを例に、考えていきたい

    「新しい資本主義」が政治の表舞台に

    これまで多くの株式会社は、株主重視の姿勢を崩さないまま、ステークホルダーへの価値提供やSDGsへの対応を進めてきました。これは小売業も例外ではありません。ファーストリテイリングや良品計画を見るまでもなく、事業拡大と資本効率の維持改善を図りながら、従業員・サプライチェーン・環境などの問題に前向きに取り組み、それを顧客にも価値として認識してもらうことで事業基盤のいっそうの強化につなげている企業は少なくありません。

    そして、率直な印象を言えば、「儲かる企業ほどステークホルダー対応も深い」と思います。

    では、株主重視のみならず、ステークホルダー重視をも既に推進してきた企業が「新しい資本主義」のもとで行動様式を変える必要が生まれるのか、株主へのリターンを犠牲にする一歩が求められていくのか―― これが資本市場から見た「新しい資本主義」に対する第一の問いかけになります。

    筆者はその可能性は低いと考えます。いき過ぎたステークホルダー軽視は問題ですが、それは例外的ではないでしょうか。公的年金やNISA、iDeCoを通じて、多くの個人資産が株式に回り、アベノミクス来の株高の恩恵を受けている以上、株価を大幅に押し下げるような激変は政権の強い逆風になると考えるからです。

    筆者の関心は別にあります。ステークホルダーへの価値提供に力を入れているものの、株主価値の創出については今ひとつの企業が、「新しい資本主義」をきっかけに評価が改められるのか、というものです。今回はこの点について、「新しい資本主義時代の企業評価の雛形」と筆者が考えるイオンを例に検討していきたいと思います。

    イオンはこれまでの株主資本主義のもとでは最優等生ではなかった

    イオンは時価総額が約2.3兆円(11月2日終値ベース)を誇り、小売業の時価総額順位はファーストリテイリング、セブン&アイホールディングス、ニトリホールディングスにつぐ第4位の有力企業です。

    その株価の評価は当然低くはありませんが、トップクラスとも言えません。

    例えば、株価純資産倍率(PBR)。2.3倍で小売企業株式時価総額トップ20社単純平均である5.5倍を下回っています。

    例えば、自己資本当期純利益率(ROE)。2012年2月期から2021年2月期までの推移は、7.3%→7.6%→4.2%→3.6%→0.5%→1.0%→2.1%→2.1%→2.5%→-7.0%でした。いわゆる第一次伊藤レポートが2014年に発表され、上場企業のROEの目線として8%が定着してからずいぶん経ちますが、過去10年間のイオンの資本効率は残念ながらこの水準を満たすことはなく、むしろ低下傾向にあります。

    一般投資家に「この水準の資本効率が続くのではあれば、PBR2.3倍を維持するのは難しいのではないか」とみなされても不思議はありません。

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