お客にとって本当に必要な「店員さん」とは “尾行販売”の凋落から見る接客の本質
約30年前の百貨店の衣料品売場は、売り手にとって過酷な戦場だった。5~6ブランドで構成される20坪ほどの平場には、メーカーから派遣されたマネキンやアルバイト、契約社員や正社員などの販売員がいた。繁忙期には10人ぐらいの販売員が狭い売場を徘徊する。
敬遠される“尾行販売”
お客が通路と売場の境界線を越え、平場に足を踏み入れたら接客がスタート。販売員たちはあらかじめ声掛けする順番をくじ引きで決めており、お客が平場に入った瞬間1人の販売員の監視下に入り、他の者は声を掛けてはならない。販売員は、自分が雇用契約を結ぶメーカーの商品を買ってもらうように口八丁手八丁でお客を誘導していく。お客が平場から境界線を越え離れた場合はまた中立となり、再度入ってきた場合は接客の順番が回って来た販売員が声掛けする。
これがいわゆる“尾行販売”である。お客が平場を離れるまで、販売員がひたすら後ろに付くところから命名されたのだそうだ。大抵のお客は“尾行販売”を嫌がっているが、やらなければ売上がつくれないので販売員はしつこくくっつく。その様子は、当時はそんな言葉自体なかったけれどもストーカーである。そしてお客が商品購入の意思表示をしたら、百貨店の正社員が待つレジへと案内して「一丁上がり!」である。
結局、“尾行販売”は百貨店凋落の遠因のひとつになっていった。
お客にとって必要な“店員さん”とは
さて、現在も家電専門店チェーンなどでは、いまだにメーカーから派遣された販売員が常駐している。ただし、さすがに“尾行販売”をしている店舗はなくなっているように見える。テレビやパソコン、白物家電の売場をうろうろしていても声をかけられることはほぼなくなったし、商品について質問をするとそのメーカーの販売員がやってきて説明してくれるようになった。
一方では、ノジマ(神奈川県/野島廣司社長)のように、“尾行販売”どころかメーカーからの派遣店員を一切おかず、自社雇用の従業員によるコンサルティングセールスに徹し、ゲームチェンジャーとして確実に成長を遂げている企業もある。
いずれにしてもお客の立場で言えば、必要なのは困った時にだけ相談に乗ってくれる「(お客にとって)都合の良い店員さん」なのである。
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