デジタル化が進行し、ECでの買物が便利になることで実店舗の大量閉店がニュースでも多く見られるようになりました。米国では「アマゾン(Amazon.com)シフト」と呼ばれるほど、アマゾンの急成長が実店舗に与える影響が大きくなっています。そうしたなか、これまでの連載でも紹介したように、「体験型店舗」や「倉庫型店舗」など実店舗ならではの優位性を生かし、デジタルと共存する実店舗が増えています。今回は実店舗が生き残るうえで、意外と見落とされがちな「実店舗の役割」についてご紹介しましょう。
SNSを活用した「デジタル接客」
従来、アパレル業界では実店舗での接客が重視されてきました。実際にスタッフと相談しながら購入を判断できる点が顧客にとってのメリットだったのです。しかし、デジタル化の進行に伴い、消費者も事前に商品について調べるようになったため、相対的に実店舗でのスタッフによる接客の需要が低くなっているのが現状です。
そうしたなか、スタッフの数を減らすか、知識教育・デジタル教育を行い、ウェブサイトやEC上などで商品の特徴やおすすめのコーディネートを紹介する「デジタル接客」への対応が必要になります。また、SNSの活用もすでに一部で始まっており、「Instagram」や「YouTube」を起点に店員自ら店舗や商品の紹介をする動きもみられます。もちろん年齢や性別などによりますが、若い人はInstagramをよく見ていますし、年配の方でもYouTubeくらいは見ていることが多いです。自分の店舗やブランドの客層に合わせながらツールを活用する必要があるでしょう。
ワークマンに返品に来るお客はLTVが高い
ECでは、基本的に試着やサイズの間違いによる返品ができません。そのため、実店舗ではもっと商品に触れられる場所を設けてECではカバーできないニーズに対応する必要があります。たとえば、試着室を2倍に増やしたり、返品コーナーを店舗内の目立つ場所に設置したりすることも重要な施策となっています。とくに返品に関しては、ECでは満足な顧客体験を得られることがまだ少ないため、来店した人にしっかりアピールして対応できるようにしておく必要があります。そのためには、ECと店舗が連携した高い互換性も重要となります。
急成長を続けるワークマン(群馬県/小濱英之社長)でも、サイズ違いでの返品を求める声が多いそうです。ふつうの会社であれば、返品が減るように努力することが多いのですが、彼らは店舗での返品・交換はウェルカムだと言います。なぜなら、データを取ってみた結果、返品・交換に来るお客はLTV(顧客生涯価値)や購入率が高く、返品のついでに別の商品を購入することも多いからです。返品・交換対応を強化することは、店舗への誘導・売上アップのために効果的だと判断し、店舗までの地図がすぐに表示できるようモバイルサイトのUIを変更するなどの取り組みを行っているとのことです。
アメリカでは返品専用のプラットフォームも
実際、日本の小売業界の数年先を行くアメリカでは返品専用のプラットフォームもあり、自社ブランドが返品できるのは当然ながら、他社のブランドやECサイトで購入したものまで返品可能なのです。これが高い集客効果となり、他の商品の販売につながっているのです。これは日本で言うと、コンビニにおける宅配サービスや商品の受け取りと同じで、宅配サービスのついでにガムや飲料といったついで買いを促進することに似ています。店舗にさえ来てくれれば、店舗内でブランドの世界観を伝えることができるため、このような思い切ったサービスを実行しているのです。
返品を積極的に受け入れようとする際、その基準を決める必要がありますが、なかには安い商品であれば返品不要とにしているECも存在します。返品対応のやりとりには、人件費や送料などさまざまなコストがかかるため、返品不要で新しいものを送る方がトータルの費用が安く済むという判断なのです。
このように、返品対応1つをとっても手間やコストが先行してネガティブに捉えている方も多いかもしれませんが、実はそんなひと手間の中にもリアル店舗が生き残る術が隠されているのです。
プロフィール
望月智之(もちづき・ともゆき)
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。