コロナ直撃で創業以来最大の赤字となったリンガーハットは復活できるのか

油浅 健一
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DXの推進で人件費を圧縮し生産性向上も

 あわせて、大幅な店舗削減で圧縮した人件費は、DXを推進することでさらに突き詰める。具体的には、AIによるデータ解析でたな卸しや在庫確認の効率化を進め、売上予測等の精度も高めつつ、ロスを最小化。従業員の作業負荷を軽減し、よりコアな店舗作業のための時間拡張を図り、生産性の最大化を目指す。

 主流だったリアル店舗の出店計画を見直し、持ち帰り・外販を強化して飲食機会の多様化を進める――。同社の巻き返し策はざっくりいえばそういうことになる。これらは、コロナ禍で「勝ち組」となった飲食が例外なく徹底していた施策でもある。その意味では、すでに効果は約束されている鉄板施策といえるが、懸念材料もある。

復活シナリオに潜む懸念材料とは

 同社の停滞が、コロナ前の2018年8月の値上げに端を発していることだ。実は既存店売上高は2018年10月度以降、2021年3月度までの30ヶ月の間、前期比実績をクリアしたのは19年6月の1回だけなのである(同社月次の「純既存店」の数字)。

 当時、原料価格高騰などを理由に13品目の値上げを実施。これにより客数が減少した分を、低価格のランチメニューで回復をめざした。その結果、客数は増えたものの客単価が減少。飲食の勝ち組企業がうまく取り込んで客単価アップにつなげたファミリー層を取り切れず、利幅を狭めるだけに終わっている。そうした悪循環の中でコロナ禍に突入しての結果であることは重く受け止める必要がある。

 つまり、コロナで離れた顧客を追うだけではここ数年の低迷を打破することは困難ということだ。ロードサイド店へのシフトでは、どれだけファミリー層を取り込めるが重要なる。ちゃんぽんに限れば、デリバリ―でもよりスピーディーな発送体制が求められるだろう。価格設定も人件費圧縮分を転換するなど大胆な施策がなければ、劇的な回復は難しいかもしれない…。

 その意味では外販事業は商品力の高さに加え、潜在ニーズも最も高く、ポストコロナを見据えても最も可能性を秘めた領域といえるだろう。実際、同社も生産体制を増強し、同事業を新たな収益源として育てていく方針だ。

 同社はコロナ後を見据えつつ、「食事をすることに今まで以上に楽しさとか美味しさとかいうことが体感できないとなかなか店舗にまで足を運んでいただけない。まだまだ試行錯誤中だが、来店してもらえる店舗をつくってモデル化したい」と既存店舗の枠を超えたニュータイプの店舗づくりへも意欲をみなぎらせる。

 コロナが追い打ちをかけた低迷打破へのロードマップは、コロナで変質した消費者の食に対する意識の変化に適合する飲食モデルを見出す、前例も方程式もない険しいものとなりそうだ。

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