顧客に寄り添う「共創経営」で未来志向のジネスモデルを創造する=丸井グループ 青井 浩 社長
顧客との「対話」を通じて新たな価値を生み出す
──16年4月にオープンした「博多マルイ」では1万5000人以上の顧客と施設づくりに取り組みました。どのように顧客との協働を進めたのですか。
青井 当社は、お客さまと直接「対話」することを重視しています。博多マルイの開業にあたっては、10人弱のお客さまと机を囲んで1~2時間ほど話し合う「お客さま企画会議」を延べ600回実施しました。
対話をするうえで大切なのは、お客さまの意見に対して批判や否定をしないことです。進行役を中心に一人ひとりの個性を尊重して話を聞くという雰囲気をつくり上げます。そうするとお客さまは安心してさまざまな声を挙げてくれるようになります。
そして、次回の会議では「前回いただいた意見を参考にこのように施設づくりを進めています」と進捗を報告し、お客さまと会話のキャッチボールをするように進めます。
ある30代の会社員の女性は、「企画会議では、自分の意見を聞いてもらえるというふだんの仕事にはない経験ができる」とやりがいを感じてくださいました。最終的には、参加したお客さまが「私たちの博多マルイがオープンするのが楽しみ」「1人でも多くの人に支持される施設になって欲しい」とまるで自分たちの施設のように考えてくださるようになったことには驚きました。もしかすると企業に自分たちの意見を伝える機会を、じつは多くの人が求めているものなのかもしれません。
──丸井は顧客をどのようにとらえていますか。
青井 当社では以前、「お客さま」と「ターゲット」という言葉がほぼ同義語のように使われていました。しかし、あらためて考えるとターゲットは「標的」を意味する言葉です。企業側から一方的にサービスや商品を提供する対象としてお客さまをとらえている言葉だと思います。
マスメディアが独占的に情報を発信していた時代には、消費者が得られる情報は少なく、企業側が発信するものを消費者がそのまま受け入れてくれたかもしれません。しかし、インターネットが普及して誰もが簡単に情報を入手できるようになり、今では商品やサービスについて企業の従業員よりも詳しいという消費者が多く存在します。お客さまと企業の関係性は変わり、お客さまが求める価値を提供することが難しくなっているのです。
そこで当社では、お客さまは「寄り添う」べき存在と考えています。お客さまの隣に立ち、同じ方向を見て、対話しながら事業を進めることができれば、当社のサービスに目を向けていただけると信じています。
──顧客との協働による商品開発や施設づくりは時間とコストがかかりませんか。
青井 博多マルイは開店準備に約2年をかけました。株主や投資家の方々からはよくコストをかけ過ぎではないかと言われました。
しかし、「お客さま企画会議」の実施など開店準備に取り組んだ従業員が、これまでと同様に販売や仕入れ業務をしていたとしても、生み出せる企業価値には限界があったでしょう。
それよりも、新規出店という機会に、将来的な企業価値を生み出せる可能性がある新たな取り組みへ人時を投入して活躍してもらったほうがよいと考えました。そうすれば従業員の努力が企業価値に反映され、仕事に対するやりがいにもつながるはずです。
これまで目の前の利益を出すことしか考えず、新しいビジネスモデルを構築するために投資をしてこなかったことが、業界の低迷を招いている原因ではないでしょうか。
博多マルイでは、お客さまやお取引先さまとともに価値を創造していくという、丸井の新たなビジョンを打ち出すことができました。このことは中長期的に価値を生み出してくれると考え、投資した価値は十分にあったと思います。
社内の「共創」に対する意識も高まりました。「共創」をほかの店舗でも実践したいという声が多く挙がっていて、順次既存店に取り入れていく予定です。たとえば「マルイファミリー溝口」(神奈川県川崎市)は、博多マルイに引けをとらない施設となるよう改革を進めています。